機能するBCPに向けて、建物も密接に関係する策定のポイント

顧問 本田 茂樹 様(信州大学 特任教授  ミネルヴァベリタス株式会社 )
機能するBCPに向けて、建物も密接に関係する策定のポイント
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日本における企業での災害対策の1つとしてBCP(事業継続計画)があります。

すでに策定済みの企業であっても、例えば新型コロナウイルスのパンデミック発生によって、営業が困難な状況になったり工場が稼働できずに商品やサービスを提供できない状況になったりするなど、策定したBCPが事業継続に向けて十分に機能しないケースが多く報告されています。*1

こういった事態などを踏まえ、機能するBCPに向けて、見直したり新たに策定されたりなど、今一度BCPに取り組まれている企業も多いのではないでしょうか。

ウイルス等によるパンデミックも大きなリスクであることが分かりましたが、BCP想定において変わらず最も多く懸念されているのはやはり「地震」です。今後30年以内の発生確率が高い首都直下地震や南海トラフ地震、さらには日本全国どこにおいてもいつ地震が発生するか分かりません。
そして過去の被害を鑑みると、地震を想定したBCPには建物内部への対策も大切な要素だと言えます。

機能するBCPに向けて、信州大学 特任教授 本田茂樹さまから建物も密接に関係する策定のポイントを教えていただきました。

 

今こそ、BCP(事業継続計画)が求められている

企業は、自社が地震・水害などの自然災害や感染症の流行のような不測の事態に見舞われることを想定し、それらを踏まえた備えを進めておくことが求められています。
それは、もし不測の事態に備えて的確な準備ができていなければ、自社の経営資源が失われ、事業を継続することが困難となるからです。

その準備は、危機的事象を「従業員の気合いや根性で乗り切る」というものではなく、「BCP(事業継続計画)という仕組みを使って企業として克服する」というものです。*2

 

(1)BCPの目的

①重要な事業を中断させないこと
自社の重要な事業を中断させないためには、事業を行うために必要な経営資源を守る防災活動が必須です。
主な経営資源としては、「建物・設備」、「従業員」そして「電気・ガス・水道などのライフライン」があります。

②中断した場合は、可能な限り短い時間で復旧させること
事業が中断するということは、経営資源の何かが欠けているはずですから、欠けたものを補って事業を継続します。
例えば、停電であれば、自家発電設備を稼働させて事業を回すという作戦です。

 

(2)BCPは入れ子構造

BCPを考える上で重要なことは、「BCP」という大きな箱の中に、「防災活動」という箱が入っているという入れ子構造になっているという点です。
「BCP」という箱を開けたとき、その中にあるべき「防災活動」の箱が入っていない、つまり防災活動が十分できていなければ、事業継続に支障が生じます。

危機的事象に見舞われた段階で、使える経営資源が多ければ多いほど事業の復旧が容易になりますから、経営資源を守るための「防災活動」が欠かせません。

 

機能するBCPとは何か

BCPを機能させるためのポイントは、BCPを発動させた際、事業継続に必要な経営資源ができるだけ多く残っているということです。
その経営資源を残す方策について、ここでは地震を例にとって考えてみましょう。

 

(1)建物の耐震補強は、基本の「き」

天井の耐震設計をする設計者

自社の拠点となる建物が半壊、あるいは倒壊すると、その被害は計り知れません。
それは、ひとたび建物が壊れてしまえば、建物の中の従業員、設備・機器や原材料、そしてライフラインなど自社の事業を継続するために必要となる経営資源が、一度にすべて失われてしまうからです。

建物を地震の揺れから守るための方策として効果的なものとして、建物の耐震補強があります。
耐震診断の結果、耐震性が十分でないと判断されれば、耐震補強工事を行うことが推奨されます。

もちろん、耐震性の向上には費用がかかりますが、自治体が耐震診断や耐震補強工事に補助金を設けている場合もありますから、それらの活用も含めて検討を進めましょう。

 

(2)天井や壁は大丈夫か

建物の耐震性向上と聞くと、建物本体、つまり構造躯体(こうぞうくたい)を想像する人が多いようですが、非構造部材となる天井や壁などの耐震対策も押さえておく必要があります。

実際、過去の地震では、天井が落下する、また壁が崩れるなどして、死傷者が出るとともに、早期復旧が難しいケースもみられます。
例えば、自社建物の天井が地震対策されているか、さらに壁の強度は十分かなどを確認し、必要に応じた対策を講じることが肝要です。

 

(3)落下・転倒防止対策が必要なものがある

従業員を地震の大きな揺れから守るためには、他にもやるべきことがあります。
それぞれの対策として例を挙げますので、参考にご検討ください。

 

①エアコン

オフィスに設置されているエアコンは非常に重く、もし地震の揺れによって落下した場合、従業員がケガをするなど大きな被害が起こり得ます。
もちろん、設置された段階では落ちないように施工されているはずですが、設置後、固定した部分が緩くなることで、地震の際の衝撃に耐えられず落下することが考えられます。

エアコンを設置する方式は、天井への埋め込み、天井からの吊り下げ、あるいは壁掛けなどさまざまありますが、それぞれの方式において適切な設置状態が保たれているか確認することが求められます。

 

②照明器具

照明器具も、その天井への取り付け方式は、天井に直接取り付ける場合や、天井から吊り下げる場合などがあります。
いずれの場合も、照明器具の耐震対策は、天井の耐震対策とセットで考える必要があります。
特に、天井から吊り下げた照明器具の場合は、金具や鎖を使い何か所が留めるなどの補強策も検討しましょう。
また、落下した場合でも、ガラス片が飛散しないよう飛散防止型の蛍光灯やLEDに交換することも対策として講じます。

 

③キャビネットや書棚など

キャビネットや書棚などは、固定していなければ、大きな揺れに耐えられず転倒します。
転倒したキャビネット・書棚の下敷きとなって従業員がケガをしないように、金属ボルトなどを使い、床あるいは壁に固定しておくことが重要です。

企業は、労働契約法の下で、従業員が安全な状態で働けるように配慮することが求められていますから、地震に見舞われた場合でも、従業員を危険にさらさないための対策を講じることが必須です。

労働契約法 第5条

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

策定したBCPが、残念なBCPとならず、的確に機能するためには、「建物を守ること」が大前提です。
建物本体はもちろんですが、建物の内部にも注意を払いつつ、これまでの対策を再確認しましょう。

 

 

機能するBCPに向けて、様々なリスクを想定して備えることが大切だと分かります。
今回、例で挙げていただいた「地震」への建物、そして建物内部の備えは、過去の被害からある程度想定して対策することができることですよね。

今一度、また新たにBCPに取り組まれている方、さらには建物や建物内部への対策の見直しが必要に感じられた方がいらっしゃいましたら、この機会に現状確認や対策検討などされてみてはいかがでしょうか。

なお、BCPになかなか手を付けられない、そもそもBCPとは何か?など気になる方がいらっしゃいましたら、ぜひコラム「SDGsにおける企業の防災とは?BCP(事業継続計画)との向き合い方」をご一読いただければ幸いです。
いま企業規模を問わず興味関心や実践意欲が高まっているSDGsの視点からみたBCPのことを、本コラムと同じく、信州大学 特任教授 本田茂樹さまから教えていただきました。
私は当初、難しく感じていたBCPのことを、少し軽やかに捉えることができるようになりました。

 

  • 関連情報

天井落下の事例と地震対策の必要性

照明器具の地震対策

間仕切り壁(パーティション)の地震対策

 

参考文献
*1株式会社NTTデータ経営研究所「企業の事業継続に係る意識調査(第6回)」,2022年
*2内閣府 防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」,令和3年

 

2022.10.17
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