SDGsにおける企業の防災とは?BCP(事業継続計画)との向き合い方

本田 茂樹 様(信州大学 特任教授  ミネルヴァベリタス株式会社 顧問)
SDGsにおける企業の防災とは?BCP(事業継続計画)との向き合い方
  • Facebook
  • X
  • LINE
  • Pinterest
  • hatena

災害が大規模化している近年、災害対策を「持続可能な開発目標(SDGs)」を視点とした政策・計画に統合するという世界的な潮流が生まれています。

災害大国と言われる日本では、災害対策の1つとして企業でのBCP(事業継続計画)の準備が伝えられており、その策定率は大企業では約7割、中堅企業では3割強と、年々進んできている状況です。
一方で、「策定予定がない」「BCPが何か知らなかった」と答える企業が規模によらず、ここ数年約2割からあまり減っていません。

こうしたなか、SDGsに対する興味関心や実践意欲は、企業規模の大きさに関わらず年々増加していすよね。
このため、BCPに向き合うきっかけとしてSDGsの視点を取り入れることで、少し軽やかに災害対策に着手できるようになるのではないか、と感じています。

今回は、SDGsの視点からみたBCPのことを、信州大学 特任教授 本田茂樹さまから教えていただきました。

 

SDGsとは何か

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットにおいてすべての加盟国が合意したもので、2030年までに持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標です。

その内容は、17のゴールと、そこにぶら下がっている169のターゲットから構成されていますが、17のゴールは、次の3つに分けることができます。

 

  1. 貧困や飢餓、教育など未だに解決を見ない社会面の開発アジェンダ
  2. エネルギーや資源の有効活用、働き方の改善、不平等の解消などすべての国が持続可能な形で経済成長を目指す経済アジェンダ
  3. 地球環境や気候変動など地球規模で取り組むべき環境アジェンダ

 

SDGs 17のゴール
(出典:国際連合広報センター「SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン」)

 

企業のSDGsに対する取り組み

SDGsは、世界各国に共通する目標ですが、国による取り組みだけでは達成が困難です。
そこで、地方自治体や企業、そして国民一人ひとりに至るまで取り組むことが求められており、それがSDGsの特徴でもあります。

すでに多くの企業でSDGsへの取り組みが進められていますが、その一方で、「SDGsに取り組もうと考えているが、何をやればよいかよくわからない」という企業の声も聞かれます。

ここでは、すべての企業が取り組み可能なキーワードとして、「企業の防災」を紹介します。

 

防災(ゴール11:住み続けられるまちづくりを)

SDGsでは、「住み続けられるまちづくりを」が「ゴール11」として設定されています。

さらにより具体的な指標として、「ターゲット11.5」があり、「2030 年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす」となっています。

SDGs ゴール11「住み続けられるまちづくりを」
(出典:国際連合広報センター「SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン」)

つまり、「ターゲット11.5」が目指すことは、次の2点です。

  • 災害による死者や被災者数を大幅に削減する
  • 直接的経済損失を大幅に減らす

 

企業の防災

これまで日本は、地震や台風など多くの自然災害に見舞われるとともに、企業でも甚大な被害が発生しています。
そこで企業は、適切な対策を講じることによって、想定される被害を軽減させることが求められます

 

① 地震対策

本社ビルなど自社建物の耐震診断を受け、耐震性が低いとなれば、耐震補強工事を行うことが考えられます。
このような対策で自社の建物を守ることは、その中で仕事をしている従業員の命を守ること、さらに建物内にある什器備品や重要なデータなどを守ることにもつながります。

② 水害対策

台風が接近する前に、側溝・排水溝の点検、止水板や土のうの準備、さらにガラス窓の補強などを行うことが推奨されます。
あわせて、自社の拠点がハザードマップ上で、浸水想定区域に入っていれば、的確な避難行動によって逃げ遅れないことも重要です。

 

これらの対策を実践することは、そのままSDGsの「ターゲット11.5」で目指す、「死者や被災者数」、そして「直接的経済損失」の削減に寄与します。
また、企業の水害対策は、SDGsの「ゴール13:気候変動に具体的対策を」にも貢献することになります。

SDGs ゴール13「気候変動に具体的な対策を」
(出典:国際連合広報センター「SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン」)

防災からBCPへ

防災活動は、極めて重要な取り組みですが、そこにとどまらず、企業はさらに一歩進んで、BCPに取り組むことも求められています。

BCPとは何か

BCP(事業継続計画)は、次のとおり定義することができます。

事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)

大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)と呼ぶ。

(出典)内閣府 防災担当「事業継続計画-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」,令和3年4月

 

BCPは二段階で考える

BCPには、2つの目的があります。
まず、「重要な事業を中断させないこと」、そして「中断した場合は可能な限り短い時間で復旧させること」です。

【1】重要な事業を中断させないこと

自社の重要な事業を中断させないためには、事業を行うために必要な経営資源を守ることが必須です。
主な経営資源としては、「従業員」、「建物・設備」、そして「電気・ガス・水道などのライフライン」がありますが、これらが足りなくなる、あるいは欠けると、事業を継続することが難しくなります。

そこで、企業は、経営資源を守るために、防災活動を行います。

【2】中断した場合は、可能な限り短い時間で復旧させること

重要な事業が中断しないように防災活動を行っていても、現在、その発生が懸念されているような首都直下地震や南海トラフ地震などの大災害によって、事業が中断することが起こり得ます。

事業が中断する理由は、従業員がケガをして出社できない、あるいは停電のためパソコンや携帯電話が使えず外部と連絡が取れないなど、経営資源の不足によって事業が回らなくなるからです。

 

ここで重要なことは、経営資源が欠けた理由を問わず、欠けた経営資源をどのように代替し、事業を継続するか、ということです。
例えば、停電の場合、その理由が地震か、あるいは台風かを問わず、まず電力を補い、事業を継続することがポイントです。
具体的には、平常時に自家発電設備を導入しておき、それを稼働させることが該当します。

 

BCPは、いわゆる入れ子構造になっています。
つまり、「BCP」という大きな箱の中に、「防災活動」という箱が入っており、その「防災活動」が極めて重要な役割を果たしています。

もちろん、「防災活動」ができていても、被災後の復旧に向けての準備ができていなければ事業継続は困難ですから、両者にバランスよく取り組むことが肝要です。

 

 

私は、SDGsの視点から企業の防災、そしてBCPと見ていくことで、少しずつそれぞれがクリアになってきたように感じていますが、皆様はどうでしょうか。

SDGsの視点として地球規模でみてみると、例えば過去、内閣府が発表した世界と日本の災害比較をした資料によれば、日本の災害被害額は世界全体のそれに対して約12%と算定されており、国土面積で言うと全体のうちわずか0.25%しかないなかで、多大な被害が発生してきたことが分かります。

このことからも、日本国内の企業における災害対策としてBCPを準備することが大きな一歩だとも言えるのではないでしょうか。

そしてBCPは、実際に機能することが大切です。
建物構造の耐震性が重要部分として注目されている一方で、過去、人命や事業継続に被害が出ているにも関わらず、建物内部の地震対策は現在も未実施のケースが多くあります。

機能するBCPに向けて、次のコラムでは、建物や建物内部も密接に関係する策定ポイントをお伝えします。

 

  • 関連情報

地震に備える、BCP(事業継続計画)の必要性 vol.1

建物用途別の停電対策とは?課題と照明器具でできる対策を知る

建物内部に潜む危険(清家剛教授)

 

参考文献
内閣府 防災担当「令和元年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」,令和2年
帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2021年)」,2021
内閣府 防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」,令和3年
内閣府「平成22年版防災白書」

 

2022.09.20
  • Facebook
  • X
  • LINE
  • Pinterest
  • hatena