地震による揺れで未だ天井が落下しています。
東日本大震災での被害をきっかけに法整備が進められ、2014年4月からは新築や大規模改修する施設の一定規模以上の空間では対策が進んできている一方、規模に満たない空間や既存建物の天井は未対策のままになっていることが多く、今も落下リスクを抱えています。
そんな中でも私たちは日ごろ、ビル、商業施設、公共施設、学校、文化施設、オフィスなど様々な施設を訪れます。
もしそういった施設にいる時に地震被害に遭ったら、まずどのように行動したら身の安全を確保できるのでしょうか。
いざという時に落下リスクの高い場所を避ける行動を取るためには、天井落下のメカニズムとともに知っておくことが非常に重要です。
人が集まる施設で地震が発生した時に、まず取るべき行動とは
施設の天井が地震対策されているかどうかは、室内からの見た目だけでは建物の専門家であっても100%分かるとは言えません。
とはいえ、今も天井落下のリスクを抱える空間が数多く存在※していることを鑑みると、施設の新旧や空間規模に関係なくどんな空間であっても、天井落下による被害にあわないためには、柱や壁際を避けて身の安全を確保する行動を取ることが大切です。
※ 天井落下リスクを抱える空間は調査全体の約8割と報告されています。詳しくは別コラムをご覧ください。
また、単純に「柱や壁際を避けて安全確保」と覚えるだけではなく、天井落下のメカニズムも合わせて覚えておくことをお勧めします。
例えば天井デザインによっては、柱や壁際だけでなく勾配頂部や段差部も落下が懸念されるため、天井落下のメカニズムを知って、天井の状況から行動を判断できるようにしておくことも大切です。
天井落下のメカニズム~天井落下はどのようにして起きるのか?~
2014年に国立研究開発法人防災科学技術研究所が行った実験*1から、地震の揺れによる天井落下のメカニズムを確認することができます。
実物大の建物に2011年東北地方太平洋沖地震の揺れが直接与えられることで、未対策の天井が落下する過程が映像としておさめられています。
下記は、2011年東北地方太平洋沖地震における地震波の50%の揺れが、体育館を模した規模・仕様の建物に与えられた実験の動画です。
(提供)防災科学技術研究所 E-ディフェンス
勾配頂部から天井が落下していく様子が確認できます。
このことから、勾配頂部の天井落下の危険性が分かります。
そしてこの落下と同じ原因によって柱や壁際の天井部分も落下の危険性を抱えています。
なぜ柱や壁際、勾配頂部などから天井が壊れるのか?
上の動画を見ていただければ分かるように、地震対策が施されていない一般的な「吊り天井」は、人が手で押すとブランコのように動いてしまうような構造です。
日ごろ、特に地震などが無ければ、柱や壁、勾配天井であれば勾配頂部など、天井とそれ以外、または天井どうしでお互いがほぼぴったりと納まっているため、老朽などの原因を別として、突然揺れたり落下したりすることはまずありません。
しかしながら、ひとたび地震が発生すると、その振動が建物に伝わり、それが未対策の天井の揺れに繋がります。
未対策の天井がブランコのように動くと、別に吊られている他の天井や設備機器、構造部に追従して動く柱や壁にぶつかり、ぶつかった部分から破壊が進むため、柱や壁際、勾配頂部などから天井が落下していくのです。
なんとなく、天井落下は空間の中央部から始まるように感じている方がいるかもしれませんが、大空間などで上下に天井が大きく揺れる構造でなければ、柱や壁際、勾配頂部や段差部などから落下するケースが多いのです。
【建物の計画、設計、施設の維持管理に携わる方に向けて】天井落下させないために、取り組めることとは
既存か新築かで、取り組めることが大きく異なります。
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既存建物の場合
施設の所有者・管理者・占有者に関係する事柄となります。
具体的には、今ある天井が地震対策されているかどうかを確認することで、そのまま維持管理していくか、または天井落下させない対策や補強等の措置をとるか、検討していくことになります。
ただ前述の通り、天井は室内からの見た目だけでは地震対策の有無を判断しづらいため、天井裏から状況を確認する必要があります。
天井は日ごろ生活をする中では見かけない部材で構成されていることから、天井の状態や地震対策の有無を見分けるには、実は専門的な知識や視点が欠かせません。
対策や補強工事を想定する場合には、天井を吊り下げている支持構造部の状態確認も重要になりますので、天井の専門家による天井耐震診断を検討していただくことも必要かもしれません。
▼天井耐震診断の専門家が解説する診断に関する基礎情報はこちら
【コラム】地震による天井落下・被害を防止するための天井耐震診断
- 新築・増築する建物/既存建物で天井の地震対策をする場合
施主にあたる皆様と、設計者の皆様に関係する事柄となります。
新築・増築する場合、建築基準法施行令には「地震その他の振動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない。」とされていることから、どの天井にも落下させない設計が求められています。
なかでも、大規模空間は特定天井と定義されており、天井脱落対策が必要です。
「各部屋や大規模空間の天井に地震対策を考えたい」「既存建物で天井の地震対策を考えたい」など、ご相談や対策についてお困りの方はぜひお問合せ下さい。
業界初の地震からいのちを守る天井「KIRII耐震天井」の研究開発ノウハウを活かした専門性の高いアドバイスをご提示します。
天井落下から身を守る行動をとるには、天井落下メカニズムを理解してリスクの高い場所を避けることが大切
未対策の天井の場合、柱や壁際、勾配頂部や段差部から落下するケースが多いです。
私は天井の地震対策に携わるまで、「柱や壁際に身を寄せる」ことが安全確保への第一歩だと思っていましたが、天井が落下する仕組みを知った今は、この行動がかえって危険に身をさらす恐れがあることを知りました。
もし以前の私と同じような行動を考えている方がいましたら、このコラムを通して、いざという時に備えて避難の基礎知識のアップデートをお勧めします。
あなたの、そして、あなたの大切な人のいのちを守るための"知恵の備蓄"になれば幸いです。
また建物の計画、設計、施設の維持管理に携わる皆様におかれましても、施設の安全確保に向けた取組みの一助となれば幸いです。
参考文献
*1国立研究開発法人 防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター 加震実験映像「【30】大規模空間を有する吊り天井の脱落被害再現実験(2014年1月,2月)」(https://www.bosai.go.jp/hyogo/research/movie/movie-detail-1401.html)