天井の地震対策の必要性

公立学校施設の新改築・増築・長寿命化改修に関わる、ガイドラインと施設計画に影響する取組み

公立学校施設は現在、様々な課題を抱えています。
そのうち、建物内部の地震対策に関わるものとして老朽化対策と耐震化が挙げられます。

▼公立学校施設が抱える課題に関する詳しい情報はこちら
【コラム】公立学校施設の老朽化対策と耐震化に向けた、建物内部に関する基礎知識

対策が急がれるなか、昨今の厳しい財政状況もあることから、効率的・効果的に老朽化対策を進めるための新たな方法「長寿命化改修」や、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)が制定され、国公私立学校を問わず木材の利用の促進に努めること、とも示されています。

公立学校施設の新改築・増築・長寿命化改修にあたっては、計画および設計において、こういった取り巻く状況や課題、対策に関する指針などを確認して進めることが大切です。

このコラムでは、施設整備に関するガイドラインの情報と学校施設の新改築・増築・改修の際に取組みが進められている事柄についてお伝えします。

 

学校施設の計画および設計の前に確認しておくべきガイドライン

2022年6月24日、文部科学省が「学校施設整備指針」の改訂版を公表しています。
(最新版が公表されている場合がありますので、都度、文部科学省のホームページからご確認くださいますようお願いいたします。)

学校施設整備指針とは、学校教育を進める上で必要な施設機能を確保するために、計画および設計における留意事項を学校種ごとにまとめたものです。

幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の5つについて示されています。

この中で例えば小学校をみてみると、学校施設整備の基本的方針のうち、建物内部に関係するものとして、「健康的かつ安全で豊かな施設環境の確保」と「地域の生涯学習やまちづくりの核としての施設の整備」が挙げられています。

 

  • 健康的かつ安全で豊かな施設環境の確保*1

十分な防災性など、安全性を備えた安心感のある施設環境を形成することが重要だとされています。

また、それぞれの地域の自然や文化性を活かした快適で豊かな施設環境を確保するとともに、環境負荷の低減や自然との共生等を考慮することも重要とされています。

 

  • 地域の生涯学習やまちづくりの核としての施設の整備*1

地域住民にとって最も身近な公共施設として、まちづくりの核、生涯学習の場としての活用を一層積極的に推進するためにも、施設のバリアフリー対策を図りつつ、災害時における地域の避難所または緊急避難場所としての役割を果たすことが求められています。

※ 避難所:災害の危険性があり避難した住民等や災害により家に戻れなくなった住民等を滞在させるための施設(災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第49条の7関係)
※ 緊急避難場所:災害が発生し、または発生のおそれがある場合にその危険から逃れるための施設または場所(災害対策基本法第49条の4関係)

なお、このことは小学校だけでなく、中学校、高等学校、特別支援学校の施設整備指針にも書かれており、幼稚園については「健康で安全に過ごせる豊かな施設環境の確保」が基本方針の一つとして挙げられています。

 

学校施設の新改築・増築・改修において取組みが進められている事柄

学校施設整備指針で示されている建物内部に関係する情報をみてきましたが、計画および設計する際、建物内部を検討するより前に、例えば新改築・増築であれば構造躯体に関して、改修であればどういった方針でどの部分をどのように改修するかを検討されると思います。

このため、建物内部の地震対策の検討にも影響する事柄として、公立学校施設の新改築・増築の中で取組みが進められている「木材利用」と改修の場合に示されている「長寿命化改修(長寿命化対策、長寿命化計画とも書かれています)」について、全体像と建物内部の地震対策に関わる情報をみてみます。

主に新改築・増築に関わる「木材利用」

木材はその利用によって化石燃料の代替によるエネルギー起源二酸化炭素(CO2)の排出削減に加えて、炭素の貯蔵及びエネルギー集約的素材の代替の面からも、地球温暖化防止に貢献するといわれています(IPCC(2001))。

つまり日本の森林から生産される木材の有効利用は、低炭素な循環型社会形成の実現に寄与するものと考えられているのです。*2

そして、森林サイクルをバランスの取れた状態にすることで、森の健康や地球温暖化の防止、土砂災害の防止、水源涵養(養い育てる)などの多面的機能を持続的に発揮する環境を目指して、公共施設をはじめ様々な建物で木材の利用が促進されています。*3

(出典)林野庁ホームページ「木材の利用の促進について」

特に学校施設は国公私立を問わず木材の利用の促進に努めることとされ、前述の学校施設整備指針でも以下のように示されています。*1

第7章 構造設計
第1 基本的事項
1 安全性能

(5)木材が持つ優れた性能・効果等によって、温かみと潤いのある学習環境・生活環境等を確保するため、安全性に配慮しつつ木造を計画・設計することも有効である。

(出典)文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部「小学校施設整備指針」(https://www.mext.go.jp/content/20220624-mxt_kouhou01-000023406_02.pdf

木材利用する学校施設の安全性に配慮した計画・設計とは?

学校施設には耐震化が求められていることから、構造が木造であっても建物内部の地震対策は必要不可欠です。
特に大規模空間で特定天井に該当する天井がある場合には、技術基準に則った天井の脱落防止対策が求められます。

また、災害時の避難所等の役割、学習環境の機能継続などの観点で、大規模空間以外のスペースであっても地震対策が求められることが考えられます。*4

▼実務担当者が語る、天井脱落対策の計画および設計の進め方はこちら
【コラム】~設計者に聞いた!~国交省告示771号に適合した耐震天井の導入と設計のポイント

 

主に改修に関わる「長寿命化改修」

老朽化した建物について、物理的な不具合を直すことで建物の耐久性を高め、建物の機能や性能を現在の学校が求められている水準まで引き上げる改修を行うことが「長寿命化改修」とされています。

天井を含む非構造部材についても、建物をいったん構造躯体のみの状態とすることから、耐震対策を併せて実施し、建物の安全性をより高めることとされています。*5

非構造部材の耐震対策とは?

非構造部材には、経年劣化等の影響を受け耐震性が低下するものもあることから、耐震点検の結果、耐震性を有していない部材があることが判明している場合には、長寿命化改修に併せて対策を講じる必要がある、と示されています。*6

▼長寿命化改修の第一歩「天井耐震診断」の解説はこちら
【コラム】地震による天井落下・被害を防止するための天井耐震診断

 

まとめ

公立学校施設の建物内部の地震対策に関わる情報として、施設整備に関するガイドラインの情報と学校施設の新改築・増築・改修の際に取組みが進められている事柄をみてきました。

学校施設整備指針で示されている基本方針からは、十分な防災性と安全性を備えた施設環境を形成することが必要であること、災害時には地域の避難場所としての役割を果たすことが求められていることが分かりました。
また取組みが進められている「長寿命化改修」においても非構造部材の耐震対策を併せて実施することが示されていました。

これらのことから、学校施設の安全確保に向けて、建物内部の地震対策も重要であることが分かります。

加えて、取組みが進められている「木材利用」の施設の場合も、特に特定天井に該当する天井がある場合には技術基準に則った天井脱落対策が求められますので、計画および設計の段階で対策検討が必要です。

ポイントまとめ

公立学校施設における建物内部の地震対策に関わる事柄は2つ。

「木材利用」   → 特定天井の天井脱落対策
「長寿命化改修」 → 天井を含む非構造部材の耐震対策

 

なお、具体的な天井耐震化の方法や関連する補助金・助成金の情報を別コラムでお伝えしていますので、よろしければご一読ください。

▼施設の計画および設計に役立つ!建物内部の地震対策と関連情報
【コラム】公立学校施設の天井耐震化に向けた具体策とは?補助金・助成金情報も

 

参考文献
*1文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部「小学校施設整備指針」,令和4年6月
*2林野庁ホームページ「木材の有効利用による環境面での貢献」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/mieruka/kankyoukouken.html
*3文部科学省「木の学校づくり-木造3階建て校舎の手引」,平成28年3月
*4林野庁ホームページ「木材の利用の促進について」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/kidukai/mokuzairiyousokusin.html
*5文部科学省「学校施設の長寿命化改修の手引~学校のリニューアルで子供と地域を元気に!~」,平成26年1月8日
*6文部科学省「学校施設の長寿命化改修の手引~学校のリニューアルで子供と地域を元気に!~」「第1章 長寿命化改修の基本的事項(2)」,平成26年1月

2023.02.07