公益社団法人全国公立文化施設協会コーディネーター、一般社団法人全国室内工事業協会東北支部技能検定講師、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構愛知支部能力開発セミナー講師等を務めており、地方自治体および教育委員会、建築士事務所協会、建築士会等を対象とした天井に関する講演にも多数出演。JACCA天井耐震診断士認定講習会や耐震天井施工研修会等の講師を務め、耐震天井に係る技術者を育成しています。
東日本大震災では多くの天井落下や被害が発生しました。
震災から10年がたった今でも、地震による天井の落下や破損が発生しています。
なぜ天井被害は繰り返し起こり続けているのでしょうか?
天井耐震化の普及活動を行っている日本耐震天井施工協同組合(JACCA)の塩入技術委員長にお話を伺いました。
耐震天井の技術や品質の向上を図るとともに、耐震天井の導入・普及を推進することによって、安全・安心な空間を提供することを目的として活動。
2005年の宮城地震による屋内プールの天井落下事故、2007年の新潟県中越沖地震の天井落下など、天井の落下被害が見受けられるようになったことがきっかけとなり、施工者の立場から耐震天井の普及を目的として2008年に協同組合を設立。
以後12年にわたり、2011年の東日本大震災を挟み、天井の耐震化の必要性を訴え、耐震天井の普及を推進している。
(公式ホームページ:https://www.jacca.or.jp/)
繰り返される天井被害
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、2000ヶ所以上の天井被害が発生しました(※1)。
その後もたびたび地震が発生し、震度6強から震度7を観測した地震だけでも同年3月12日に長野県・新潟県県境付近、3月15日に静岡県東部、そして4月7日の宮城県沖、まだ記憶にも新しい2016年4月14日、4月16日には熊本県熊本地方、2018年9月6日には北海道胆振東部で発生しています。
1981年(昭和56年)6月1日に導入された新耐震基準以降、構造設計により、構造躯体の耐震化が進み、建物本体が地震に強くなったがゆえに、非構造部材と呼ばれる天井などの耐震対策の遅れがクローズアップされる結果となりました。
2014年4月には耐震天井の改正建築基準法が施行されるなど、天井の耐震化をとりまく環境は大きく変わりました。
JACCAとしても従前にも増して耐震天井の普及に力を入れてまいりました。
しかしながら、その後も天井落下は散見され、先日の2月13日に東北地方で発生した地震では、最大で震度6強の揺れが観測された宮城県、福島県で、再び多くの天井の落下、破損が報告されています。
JACCAには、建物の所有者・管理者、設計事務所、建設業者等から被害の調査と復旧対応の問合せが寄せられています。
宮城県内で158現場、福島県内で40現場の合計198現場の天井(※2)、壁等の非構造部材について対応中です。
今回の天井被害の特長は、天井の下地(鋼製下地材)は落下せずに仕上材となる天井板のみの落下や特定天井に該当しない廊下やエントランス等の天井の落下です。
※1:建築研究所 2.1東日本大震災における天井脱落被害のアンケート調査より
※2:日本耐震天井施工協同組合特設ページより
天井落下の原因
東日本大震災後には、「天井が落ちたので現場を見てほしい」「天井が壊れているかもしれないので天井の調査をしてほしい」というご依頼が急増しました。
その際、依頼主からの「なぜ天井が落ちたのか?」というご質問に対して、一部の天井の施工に詳しい人からは「クリップが弱いから」とか「ハンガーが変形したから」というような天井部材の強度不足を原因として指摘されることが少なくありませんでした。
しかし、それは結果であって本当の原因ではありません。
天井落下の本当の原因は、適切な天井の耐震設計が行われていなかったことにあります。
正しく耐震設計されていれば、その要求する強度に見合った耐震部材を使用して天井を施工することになるので、こうした部材の変形、落下を防ぐことは可能です。
つまり、天井を正しく耐震設計し、正しく施工する事が重要なのです。
壊れていない天井も危険
下から見上げて壊れていない天井、落下しなかった天井も天井裏では破損しているケースが殆どです。JACCAが過去3年間で調査した天井のうち、約8割もの天井下地材に破損等が発見されました。
2016年4月に発生した熊本地震でも大規模空間の天井の落下が問題となり、特に避難所となる施設の天井が落下した為に、防災拠点としての機能が果たせない事例が散見されました。
天井裏で天井下地材が破損した状態で施設を使用し続けた場合、地震発生時に天井が落下し避難所としての機能継続や人命保護の役割が果せない危険性が高くなります。
まずは「天井耐震診断」から
建物を地震後にも安全・安心にお使いいただくため、またいざというときに人びとのいのち、施設の事業継続を守るためには、天井の地震対策が重要です。
まずは地震対策の第一歩として、建築基準法第12条に基づく天井裏の定期調査報告書の確認とJACCAによる天井裏を詳細に調査する天井耐震診断をご提案いたします。
▼天井耐震診断に関する詳しい情報は、こちらをご覧ください。
日本耐震天井施工協同組合ホームページ「天井耐震診断とは」
下から見上げて壊れていなくても、天井裏を調査すると壊れている可能性があることに驚きましたね。
地震による天井の落下を防ぐためには、日常から定期的に天井を点検し、安全な状況を維持管理しておくことが大切であることを学びました。
施設を運営・管理されている方々に向けて、建物の安全を見直すきっかけとなりましたら幸いです。