企業や自治体に求められる災害リスクマネジメント

災害に強いまちづくりとは?求められる建築と地域の連携

小野田 泰明様(東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻・教授 東北大学災害科学国際研究所・教授(兼担))

巨大地震、激化する水災害など自然災害のリスクと向き合う日本では、「災害に強いまちづくり」を進めることが重要です。そして災害に強いまちをつくっていくためには、建物や環境の安全性を確保すると同時に、地域住民一人一人の協力も必要不可欠です。では、どのような取り組みを通じて災害に強いまちづくりを進めるべきなのでしょうか?
そこで今回は、地方自治体や生活者が取り組むべきことについて、東北大学大学院小野田泰明教授にお話を伺いました。

 

高リスク社会への対応

悪い事柄が起きる確率を「リスク」と呼びます。

この時、同じ災害であっても人やものによって受けるダメージには大きな差が生じます。これを踏まえて最近では、「自然災害の発生確率」に「被害に対応できる主体の能力」を掛けあわせたものを「リスク」とする考え方が、主流になっています(図4)。

前者のリスクは、不確定でありつつも「場所」と関係することが多く、後者のリスクは時間と空間に残存する資源を再組成して受けたダメージを回復する、主体の「戦略」に強く関わります。

災害時には、私たち一人一人が生存にむけてこれらをどのように使うかが鍵となるわけです。

図4 リスクのモデル (出典:小野田・佃・鈴木、復興を実装する、鹿島出版会、2021、Original: Davis and Alexander, Recovery from Disaster, 2016)


「場所」との関係

人口が減少傾向にある日本では、こうした縮退の力を使って、リスクの高い場所からリスクの低い土地に住みかえる機運が高まっています。政府も2014年に、都市再生特別措置法の中で「立地適正化計画制度」を定め、これを後押ししています。
https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network2.html

この制度は、地方自治体が各地域の人口、自然災害の発生確率、交通や管理コスト、将来のあるべき姿などを勘案してマスタープランを定め、土地利用を誘導するものです。任意なので自治体によっては制定してないところもありますし、土地利用は個人の財産を含むので実際に誘導できるかは別問題でもあります。

しかしながら、多くの人が関心を持って考えることは重要ですので、ぜひ、地方自治体のホームページなどを覗いて、立地適正化計画がどうなっているかを見てみましょう。

また、その基礎となっている自然災害の発生想定(「ハザードマップ」)もチェックして、自宅やよく使われる施設などがどうなっているのかを見て頂きたいと思います。

 

「戦略」との関係

戦略というと大げさですが、交通事故をイメージして頂けると良いかもしれません。交通事故にはそれなりに確率がありますが、破滅的なリスクから守ってくれる保険があるおかげで、多くの人が自分で運転して移動することを選択出来ています。
交通事故は多様ですが、自然災害に比べれば機序を想定でき、頻繁に発生することを活用してデータを収集し、統計学を用いて保険料を妥当に算定することが出来る訳です。また災害であっても、ある程度のリスクを想定できる火災や地震で保険が整っているのは、このためです。

一方、阪神淡路大震災や東日本大震災のような長周期の大災害は、いったん起こると致命的で、被害も多様なため、リスクの算定は難しく保険の構築は困難です。たとえできたとしても保険会社がかける再保険で、国の富が海外に流出しかねない厄介な存在です。

素晴らしい発明である保険への期待が限定的となる大災害において、短期には、ハザードマップなどに目を通して、土地がもっているリスクを理解し避難の方法などを確認すること。長期には、安全で持続可能なまちづくりのための事業(前述の立地適正化計画など)に日頃から関心をもって参画すること。といった両面の対応が重要となります。

 

災害に強いまちづくりに向けて、求められる建築と地域の連携とは

日本は過去の地震の被害を研究し、その対策を制度に積極的に採り入れている国です。

建物の耐震基準は、1981年、2000年に大きく見直され、大規模地震にも対応して人的被害を少なくすることが目指されています。
これらの努力で、単体の耐震力は向上していますが「リスク」のところで書いたように、生き延びた単体が、空間と時間の両方の広がりの中で連携を再び確保し、いち早く日常を獲得することが重要です。

こうしたしなやかな強靭さは「レジリエンス」と呼ばれ、近年の防災科学の中で注目されています。

 

「空間」

東日本大震災の発災直後、まず行われたことのひとつが、道路上にあるがれきなどを強制的かつ優先して除却して道路機能を回復する「啓開」でした。

このようにそれぞれが生き残った後で、生き残った建物や主体を再び連携させて、最低限の社会機能を再生することが大切です。こうした空間の物理的側面だけでなく、近年では情報空間を維持することも重要になってきます。

すべてを復活させるのではなく、結節点をいくつか設定して、それをつないでいくイメージでしょうか。集落ごとのまとまりを重視し、素早い復興を成し遂げた宮城県七ヶ浜町では、地区ごとの核になる地区避難所の整備から復興が広がっていきました。

 

「時間」

大災害はめったにしかやってこないので、再び来た時にはほとんどの人が前の災害を忘れていることが良く起こります。
そのために語り継ぎが大切となりますが、なかなか困難です。行うことが楽しみでもあり、それが文化として根付いてこそ、長い時間を生き残ることが出来るわけです。地域の歴史を丁寧に見ると、そのような地域文化を見出すことが出来ます。

東日本大震災で被災した釜石市鵜住居地区では、若者たちが祭りの日に、市街に近接する山に拠点を仮設して野営する「陣屋遊び」が行われていました。これは避難訓練を文化にした好例と言われています。これは、若者世代の技術伝承であると同時に大きな楽しみでもありました。我々は長い時間と短い時間をやり取りするこうした知恵を生み出していかなければなりません。

 

「サイクルモデルから能力モデルへ」

「災害は忘れたころにやってくる」という言葉がよく使われます。

災害はいつか来るから備えましょうという「教訓」は有用ですが、リスクの減少につながるかどうかは不確定です。世界有数の災害大国である米国などでは、こうした「サイクルモデル」から災害をありうるシナリオに整理して、その中でだれがどのような役割を果たすべきかを設定し、そのためのトレーニングを日常的「能力モデル」へ転換する動きが進んでいます。先の「陣屋遊び」は、まさにこのモデルの好例と言えます。

 

考え続けることが大切

言うまでもなく災害は厄介な出来事です。私自身、東日本大震災からの復興にずっと関わってきましたが、教訓をまとめるのは本当に難しいと思います。むしろ、単純化しないで考え続けることが重要なのだと思います。

ここで書いたようなことを東日本大震災からの復興と関係させて本にまとめてみました(図5:「復興を実装する」鹿島出版会、2021)。ちょっと取りつきにくいかもしれませんが、機会がありましたら、目を通してご意見を頂ければありがたいです。

図5 東日本大震災からの復興を記述(撮影:佃悠)

 

今回は災害に強い街づくりにおける課題や、自治体・生活者がいまから出来ること等について東北大学大学院小野田泰明教授に伺いました。
本コンテンツを通して、持続可能な社会の実現に寄与できましたら幸いです。

なお実際の取り組みやまちづくりについて、また被災地復興から見えてきた社会的課題についても小野田教授に伺っていますので、よろしければご覧ください。
-東日本大震災から11年-被災地の復興から考える、創造的で持続可能な社会へ

 

※本記事では、防災・地震対策に関する一般的な情報を届けることを目的としており、営業を支援する目的のものではございません。

 

2022.07.27