地域防災から考える、公共施設の役割とは(1/2)―地域防災の基本と課題―

村上 正浩 教授(工学院大学 建築学部 まちづくり学科)
地域防災から考える、公共施設の役割とは(1/2)―地域防災の基本と課題―
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地域によって人口、年齢層、建物の種類、地形などが異なります。そのため、同じ地震でも地域ごとに地震に対する対策が変わってきます。

ここでは、「地域防災」の視点から、地域の特性にあわせて、人びとが滞留する防災拠点、避難所、駅等で起こりうる人の動きや建物に求められる役割や環境を把握し、防災拠点や避難所となる建物の設計に役立つ情報をお届けしたいと思います。

そこで、地域防災を専門に研究されております、工学院大学の村上正浩教授にお話しをお伺いしました。

地域が抱えている課題

―――現在、地域防災にはどのような課題があるのでしょうか?

日本は、地形、地質、気候等の自然的な条件から、地震だけではなく、津波、豪雨、洪水、崖崩れ、地滑り、高潮、噴火等による災害が発生しやすいです。加えて、地球温暖化に伴う気候変動の影響から、近年は短時間強雨の発生頻度や降水量も増大しています。

また、都市化が進み、流域の多くが市街化し、自然遊水地が減少したことによって、短時間に多量の表流水が河川に流入するようになり、結果として河川の水位が急激に上昇するようになってきています。地下空間の利用が進んでいる大都市の駅前周辺等では、地下施設への浸水被害が発生し、地下空間の水害リスクも増大しています。

都市化の進展により湾岸部の埋立地や傾斜地などの宅地化が進行したため、地震時には液状化や滑動崩落などによる被害の危険性も高まっています。郊外部への都市化の進行は、郊外の住宅から都心の職場へ通勤する人々の流れを生み出し、その結果として地震時の帰宅困難者という問題も引き起こしています。

また、都市部には高層のマンションが急増していますので、地域人口の急増に伴い避難所に避難できないといった問題も発生しています。膨大な昼間人口を抱える大都市の駅前周辺では、大量の帰宅困難者に加えて、想定外の物的・人的被害の発生、大量の傷病者に対する災害医療の問題、日本の経済機能の中枢を担う業務地域としての機能継続の問題など、様々な問題が複合的に発生する可能性もあります。

そして日本の高齢者率(総人口に占める65 歳以上の人口の割合)は28.7%(2020.9.15現在)となり、4人に1 人が高齢者という高齢社会です。住民相互の助け合い(共助)が被害を軽減するうえで不可欠であることはいうまでもありませんが、地域防災の要となる自主防災組織や消防団の高齢化も進行していますので、共助による地域防災活動に支障が出ています。地域防災活動も今後はさらに少子化が進み、人口減少・高齢化の影響が深刻化していくことが予想されますので、地域防災力の低下が課題といえます。

―――地域防災の視点からみてみると、本当に様々な課題があるんですね。

先ほどのお話の中に、都市部での避難所に関してコメントがありました。避難所は地域防災の拠点ともなる場所だと思いますが、避難所にはどのような課題があるのでしょうか?

まず避難所とは、倒壊・焼失等により、自宅に住めなくなった人たち(避難者)へ宿泊や給食等の救援を行う一時的な生活場所です。また、自宅での生活は継続できるが、避難者と同様に救援を要する人たち(在宅避難者)への救援活動の拠点ともなりますし、避難者や地域住民への災害情報を提供する拠点でもあります。
避難所は自主防災組織等が主体となって運営していくものですが、過去の災害では避難所運営におけるさまざまな課題が発生しています。

たとえば東日本大震災では、多数の被災者が長期にわたる避難所生活を余儀なくされる中、物資不足や避難所のバリアフリー化等の配慮が必要な方への対応が課題となったほか、長い避難生活による心身の負担や機能低下への対策、施設管理者主体の運営から避難住民主体の避難所運営への切替えや被災者の生活再建に向けた取組みも課題となりました。

熊本地震では、被災者支援において、避難所運営における専門ボランティアやNPOとの連携や、プッシュ型の物資支援を初めて本格的に実施するなど、過去の災害を教訓にした取組みが講じられました。しかし県庁舎や指定避難所が被災により使用できなかったこと、多くの避難者が避難所に押し寄せた際に十分な対応ができなかったこと、支援物資を避難者に円滑に届けられなかったこと等が課題となりました。

他にも過去の災害では、以下のような課題も指摘されています。

<避難所運営体制について>
運営の役割決め、避難所運営者の位置づけ、意思決定の場への女性参加、など
<食料・物資管理について>
在宅避難者への支援、物資(食料・水・毛布)の不足、特別食(アレルギー)の確保、備蓄・支援物資のニーズ把握、支援物資の仕分け、など
<トイレの確保・管理について>
断水時のトイレ用水の確保、洋式トイレの不足、仮設トイレの設置場所、トイレの清掃・メンテナス、など
<避難者の健康管理について>
感染症等への対策、運営スタッフの疲労、避難者の健康管理維持、など
<寝床の改善について>
プライバシーの確保、パーテーションの不足、避難所生活スペースのゾーニング、など
<入浴について>
風呂・入浴施設の確保が困難、入浴時間の調整が困難
<配慮が必要な方への対応について>
要配慮者対応ができる運営者の不足、避難所に避難できない住民への対応、外国人への配慮、要配慮者に配慮した生活空間の整備、障害者の受入の判断、など
 


今後、首都直下地震や南海トラフ巨大地震など大規模地震の発生が懸念されていますが、このような課題解決が必要なことはいうまでもありません。感染症等との複合災害への備えも必要でしょう。

今後は避難所運営の母体となる自主防災組織の高齢化や担い手不足もより深刻になることが予想されますので、地域の多様な主体が連携して運営組織をしっかりとつくり、日頃から避難所運営を想定した実践的な訓練を積み重ねていくことも必要です。
地域の中には建築士や介護士、看護師など様々な専門家がいることもあるでしょうから、日頃の訓練や防災活動を通じて連携体制づくりを進めておくと、地震発生後の避難所となる施設の安全性の確認や怪我人が発生した場合の応急救護などに役立つかもしれません。
 
―――これだけ多くの課題があることを考えると、できる限り避難所には行かず自宅にいた方が良いのではないか、とも思うのですがどうなのでしょうか?

避難所は収容人数にも限界がありますので、東日本大震災以降は、自宅に危険な損傷もなく自身や家族に怪我もなければ、できるだけ自宅に留まって生活する「在宅避難」を推奨する自治体も増えてきました。新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、そうした考え方はさらに広まったと思います。住み慣れた自宅で暮らすことによってストレスが減り、心身の健康を保ちやすくなるといったメリットもあります。

ただ、在宅避難の場合には、避難所への避難に比べると支援情報が入りにくかったり、支援物資が提供されにくい場合もあります。また、近所や周囲の方が避難所避難を選択した場合、さまざまなことを気軽に相談できる相手がいなくなることも想定されます。

 

地域防災における課題はさまざまですが、地震・水害等の災害だけでなくコロナウイルスのような感染症に対する配慮も加わり、生活様式や避難のあり方にも変化がおきているのですね。

地震発生時に都市部で起きる帰宅困難者の問題についてもお話をお伺いしました。
【コラム】地域防災から考える、公共施設の役割とは(2/2)―都市部で抱える課題(帰宅困難者)―にて詳しくお伝えします。

 

2021.07.01
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