地域防災から考える、公共施設の役割とは(2/2)―都市部で抱える課題(帰宅困難者)―
村上 正浩 教授(工学院大学 建築学部 まちづくり学科)
都市部は働くためにオフィスにくる人びと、買い物のため商業施設を訪れる人びと、観劇のため文化施設を訪れる人びとなど沢山の方が集まります。
地震発生時に問題となるのが「帰宅困難者」です。
都市部で生じる帰宅困難者の問題や公共施設に求められる役割について、工学院大学 村上正浩教授にお話しを伺いました。
都市部での帰宅困難者
―――東日本大震災の際は、都市部では多くの帰宅困難者が発生したことを覚えています。
東日本大震災では、鉄道が運休したことにより首都圏で 515 万人ともいわれる大量の帰宅困難者が発生し、各地で車や人による混乱が生じました。これほどの数の帰宅困難者が発生した事例は世界でも例がありません。
東日本大震災以降、大都市をはじめとした自治体が帰宅困難者対策に取り組むことになりましたが、行き場のない帰宅困難者を公共や民間の一時滞在施設(※1)で滞留させ、施設内の従業員を一定期間留める対策は、歩道の大混雑による群衆なだれの発生回避や、車道で発生する渋滞による避難・消火・救急など災害対応の遅延の解消につながることが期待されます。とくに地震後の初動期において公的機関による円滑な災害応急対策が実施できれば、人的被害を間接的に軽減することにもなりますので、大都市が帰宅困難者対策を積極的に進める意義は大きいといえます。
工学院大学1階ホールでの帰宅困難者の受入れの様子 (出典)工学院大学
※1 帰宅困難者 一時滞在施設
帰宅が可能になるまで待機する場所がない帰宅困難者を一時的に受け入れ、休憩場所のほか、可能な範囲でトイレ、水道水、情報の提供等を実施する施設です。
(参照サイト:横浜市ホームページ)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/bousai-kyukyu-bohan/bousai-saigai/wagaya/jishin/place/konnan/20170131153638.html
―――では、東日本大震災から10年が経過しましたが、今後予想される大地震に備えて、大都市の帰宅困難者対策は十分に進んできたのでしょうか?
多くの自治体が帰宅困難者対策の推進に努力してきましたが、結果からいえば、十分とはいえない側面もあります。
たとえば、帰宅困難者の想定数に対して、ほとんどの地域で圧倒的に一時滞在施設が不足しているのが現状です。新型コロナウイルス感染症の拡大により、リモートワークが普及してきたとはいえ、やはり一時滞在施設の不足は否めません。
また、一時滞在施設の多くは非常電源として自家発電機を保有していますが、そのほとんどが消防法の法定内の設備であり、長時間稼働できるものは多くありません。
さらに、それぞれの地域特性に即した一時滞在施設運営のためのマニュアルの整備状況や一時滞在施設の運営訓練の実施状況も高いとはいえません。
一時滞在施設を拡充していくには損害賠償責任の問題解決がよくとりあげられますが、一定期間の滞在と機能継続を可能とするための電力確保といったハード的な対策の支援も必要ですし、一時滞在施設運営のためのマニュアル作成や訓練実施といったソフト面からの支援も大切です。
そして何よりも一時滞在施設の開設には自社の従業員の安全確保が大前提となりますので、自社従業員が安全に滞留できる環境整備をまず考えてほしいです。
今回は、大都市で問題となる帰宅困難者に焦点をあてました。帰宅困難者対策を進めるうえでは、都市に滞在する人々を発災から一定期間留める環境づくりが重要となります。とくに公共施設は、一時滞在施設としての役割を担うことが求められています。
その実現のためには、施設の機能維持のためのハード対策と、施設内滞留と一時滞在施設として機能させるためのソフト対策が必要です。
2章にわたり、地域防災が抱える課題から公共施設の役割についてお伝えしました。
大地震から人びとのいのちを守り機能継続を維持するために、皆さんの働いている地域、住んでいる地域における防災対策・防災活動を見直すきっかけになれたらと思います。
工学院大学 建築学部 まちづくり学科
村上 正浩 教授