2014年5月に㈱千葉ステーションビル入社。施設管理部に配属され、ペリエ8店舗、他2店舗の施設管理業務およびペリエ千葉の開発を担当。2017年4月に千葉支店に異動。ペリエ千葉の店舗運営およびエキナカ、駅ビルの5期に渡る開業を担当。2020年7月に施設管理部(現設備部)に異動。再び全館の防火防災含めた施設管理業務全般を担当。
地震はいつ起きてもおかしくありません。
東京都周辺の首都圏に最大級の被害をもたらすとされるマグニチュード7クラスの首都直下地震は、今後30年間に70%の確率で起きるとされている最中、2021年10月、10年ぶりに首都圏で震度5以上の地震が発生しました。
大規模地震に備えるために、施設の所有者・運営管理者、そして設計者が取組むべきこととは?
私たちの生活に欠かせない食料・衣類などを購入するために訪れる商業施設。
東日本大震災では多くの商業施設が甚大な被害を受けました。内閣府によると震災直後、岩手・宮城・福島の東北3県では総合スーパーの約3割、コンビニの4割強が営業を停止したとされています。
(参考資料:淡路島地震における商業施設の被災と対応 「東日本大震災の事例」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejseee/70/4/70_I_596/_pdf)
商業施設が営業停止となると、私たちの暮らしに影響が出ることは勿論、商業施設を運営・管理される方にとっては建物・建物内部の損傷による安全確認や修復作業への対応、さらには売上低下などで運営に大きな影響を及ぼします。
今回は、地域の防災拠点ともなる商業施設の機能継続をテーマに、一般社団法人日本ショッピングセンター協会のご協力のもと、千葉県を拠点とする商業施設「PERIE(ペリエ)」を運営・管理されている株式会社千葉ステーションビルの設備部次長 田中様に、東日本大震災の経験から営業継続と早期営業再開を目指した取り組みについてお話を伺いました。
株式会社千葉ステーションビル (公式HP:https://www.perie.co.jp/)
株式会社千葉ステーションビルは、東日本旅客鉄道株式会社の子会社で、千葉県内で商業施設「 PERIE(ペリエ)」をはじめとする駅ビルの運営・管理を行い、京葉線3駅では駅運営業務を受託している会社です。一般社団法人日本ショッピングセンター協会(※)会員。
1973年4月、ショッピングセンター(SC)の発展を通じて消費者の豊かな生活づくりと地域社会の振興に貢献することを目的に設立。その後1975年4月に、社団法人として通商産業省(現経済産業省)から許可を受け、2012年4月には内閣府の認可を受けて共益的活動を中心として行う一般社団法人に移行。SC経営に役立つ多様なサービスメニューの提供をはじめ、社会貢献事業や街づくりへも積極的に取組まれている。
(公式HP:http://www.jcsc.or.jp/)
―――(株)千葉ステーションビルは、商業施設の運営・管理をされておりますが、商業施設にとって地震や台風などの自然災害の発生は多大な影響を与えると思われます。
特に、大規模地震が発生した場合、商業施設において想定される課題や求められる対策はどのようにお考えでしょうか?
当社は、商業施設の運営会社として、まずはお客さま、スタッフの命を守ることが使命であり、安全、安心な館づくりを第一に考え、施設の運営、維持管理を行っています。東日本大震災を経験し、当社として取り組んだ事例をいくつか紹介します。
1.「自助」「共助」の備え
大地震による犠牲者の多くは、地震発生直後の建物倒壊や家具の転倒によるものです。こうした地震直後の状況下で、一人ひとりを助け、守ることに必要不可欠となるのは、自ら守る「自助」と、近隣で助け合う「共助」です。大地震が発生した場合は、自治体、消防や警察などの「公助」だけでは、救助・援助の人手が到底足りなくなります。
※詳しくは総務省消防庁HP( https://www.fdma.go.jp/)
「自助」、「共助」であり、「自分の身は自分で守る」、「自分たちの施設は自分たちで守る」という意識を持ち、日ごろから災害に備えておくことが重要です。
当社においては、自らを守るため、建物の耐震化、転倒防止のための什器固定、社員用の食料と水を準備しており、「共助」の活動を支えるため、各店舗に減災バック、バール、ショップスタッフの人数を考慮したエマージェンシーシート、トイレ等の防災備品を配備し、日頃から災害に備えています。
また、商業施設の特性を生かし、非常用食料品に関しては、ショップからの食料有償提供を受けることとし、帰宅困難者対応に備えとしています。
《防災グッズのイメージ写真》
2.通信手段の確保
当社は基幹店となるペリエ千葉を含めペリエ8店舗、その他2店舗、他にも不動産施設を所有しており、施設が分散しております。災害時に、各施設がどのような状況であるのか把握するための情報伝達、情報収集が、初期対応の肝となりますが、東日本大震災では、携帯電話がほとんど使用できず、被害状況の確認が非常に困難だったと聞いています。
そのため、当社では、既存の固定電話、携帯電話以外に、災害時でも通信制限のかからないIP無線機を導入し、複数の通信ツールの整備により、災害時でも通信可能な体制を構築しています。
また、ツールを用意しただけではなく、IP無線機導入以降、年2回の全社防災訓練では、IP無線機を使用し情報伝達訓練を行うとともに、より多くの社員が操作できるよう毎月通話訓練を行い、いざという場面で活用できるように習熟度の向上を図っております。
―――災害発生時に商業施設は地域の防災拠点になると伺ったことがあるのですが、防災拠点として機能するためにどのようなことに取組まれているのでしょうか?
1.営業継続と早期営業再開
ショッピングセンターは地域のみなさまのライフラインとしての役割を担っており、特に駅ビルは立地特性上、可能な限り通常営業を維持することを基本と考えています。営業継続が困難な場合においても、お客さまへの支障を最小限に留めるべく、地域生活者支援のため、原則として食品・飲食・ドラッグ関連ショップの営業を目指しています。
営業継続するための対策としては、どのエリア、ショップを優先的に営業させるのか、具体的な緊急営業体制を明示し、ショップや協力会社と事前に共有し、連携強化を図っています。
設備面でも、売り場などお客さまがご利用する上で支障のある場所について、修繕できる箇所は早急に修繕し、即対応が困難な箇所はお客さま・ショップが被害を受けぬように事前にリストアップし、巡回強化などの保全にあたり設備による営業支障のないように対策を講じています。
2019年9月9日、台風15号が千葉市に上陸した際は、千葉駅では終日鉄道が運休し、駅周辺の店舗が営業できない中、千葉駅のエキナカ店舗の営業は継続し、私も含め当社社員が駅周辺で駅入場券を無償配布し、エキナカ営業の案内を行いました。
その際、ご利用のお客さまからは、「他のお店が閉まっている中、買い物出来てよかった」との感謝の声を聞いた時は、地域への貢献を実感した瞬間でした。
2.帰宅困難者対策
駅という交通結節点にある駅ビルの使命として、鉄道が運行を見合わせた場合、帰宅できない人の受け入れ先としての役割も求められており、当社では、2019年3月千葉市と帰宅困難者の受け入れ施設の協定を締結し、ペリエ千葉のフードコートが一次滞在施設として指定されています。
2019年10月の集中豪雨時には、JRの運転見合わせにより、ペリエ千葉へJR東日本から帰宅困難者の受け入れ要請があったものの、千葉市の公共施設で対応可能との判断により運用させることはありませんでしたが、館内では、帰宅できないスタッフのため、鉄道の運転が再開されるまで、従業員休憩室を利用していただきました。
今後の課題としては、協定で定めた運用マニュアルに基づく実運用を想定した訓練、コロナ禍に対応した対策を検討していく必要があると考えます。
- 関連情報
「帰宅困難者における課題」については、こちらを参照ください。
【コラム】地域防災から考える、公共施設の役割とは vol.2 ―都市部で抱える課題(帰宅困難者)―
―――東日本大震災を踏まえて、さらには最近の状況を含め取組まれている事例をご紹介いただきました。最後に、施設の運営者・管理者の方に向けて、災害に備えて今からやっておくべき防災・BCPに関する取り組みを教えてください。
当社は、地震等の緊急事態に対して、「防災マニュアル」および「災害発生時の対応マニュアル」を策定し、平常時の準備、発災時の対応手順、発災後の事業維持および早期復旧に向けた計画を定めています。
・防災マニュアル(2018年策定)
震度5弱以上の地震が発生した場合、お客さま及び当社施設で働く方々の身の安全を確保し、的確な手順で対応するための基本的な手順をまとめたマニュアルです。
日頃からの準備、地震発生時の行動、地震発生後の行動に関する基本行動を示しており、各ショップ、当社社員等の携帯用にポケット版を作成し、いざというときに活用できるよう工夫しています。
・災害発生時の対応マニュアル(2019年策定)
地震、台風及び大雪等の自然災害により施設に被害が発生した場合、または災害が予想される場合に情報収集の一元管理及び体制整備等を迅速に構築するために策定されています。
このマニュアルには、営業時間の変更に関する考え方を明記しており、事業継続計画の側面として、ライフラインに直結する食料品等販売ショップの営業継続を優先的に行うことが示されています。また、2019年9月の台風上陸時の対応を経て、(2)で紹介した緊急営業体制を追加で作成するなどマニュアルの見直しを行っています。
直近では、新型コロナ感染拡大防止のための臨時休館後の営業再開時には、このマニュアルに沿って、ショップと連携し、ライフラインに直結するショップの早期再開に繋げることができました。
- 関連情報
「BCP(事業継続計画)の基本・策定の必要性」については、こちらを参照ください。
⇒地震に備える、BCP(事業継続計画)の必要性 vol.1
今回は、東日本大震災の経験から営業継続を目指す商業施設の取り組み事例をご紹介いたしました。
警戒される大規模地震の備えにあたり、施設を所有・運営管理される方には、備えと対策を見直す一つのきっかけとして、また、施設を設計される方には、災害時に防災拠点ともなる商業施設に求められる機能を共有いただき、施設の安全性の向上と機能維持に向けた設計に、お役立ていただければと思います。
さらに、機能継続のためには、防災活動や建物の耐震化だけでなく、建物内部を構築する天井、照明、防煙垂れ壁、間仕切り壁などの地震対策も重要です。
東日本地震ではショッピングセンターや映画館の天井が落下し、人的被害を及ぼしました。また熊本地震では避難所となる体育館の天井が落下し、避難する人びとを受け入れることができないという事態が起きました。
桐井製作所では、「耐震天井の開発者」として、建物内部の地震対策を進めております。
施設の用途に応じた天井の地震対策から天井裏の調査・点検まで、天井の耐震化をご検討の際はご相談ください。
お問い合わせはこちら
https://www.kirii.co.jp/inquiry/
なお、KIRII耐震天井について知りたい方は導入事例をぜひご覧ください。
公共施設から商業施設まで全国各地10,000件以上の採用実績があります。
▼KIRII耐震天井の採用の経緯や決め手なども掲載
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