天井の地震対策の設計

屋内プールの維持管理と天井設計に向けて、関わる基準等を解説

近年、学校のプールが屋内化してきていることをご存じでしょうか。

私立学校だけでなく、例えば東京都内の一部公立学校では屋内プールの設置が進んでおり、児童生徒の利用だけでなく、地域住民にも開放され、地域密着型のスポーツ施設としての一面も持つようになってきました。

また「人生100年時代」における健康志向の一層の高まりにより、2021年のフィットネスクラブ利用者数は約2,000万人で、20年間で約1.5倍に増加しています。
なかでも屋内プールは施設の1つとして設置されることが多く、老若男女、季節や天候を問わず利用されています。

全国的に数多くある屋内プールですが、残念ながら過去、天井が落下した事例がいくつかあります。
これ以上、天井落下による事故で人命や事業継続に被害を出さないためにどういった対策が有効なのか、新築・改修の際に役立つ安全確保に関わる基準や規則もあわせて解説します。

 

これまでに発生してきた屋内プールの天井落下の事例

これまで、屋内プールの天井落下がいくつか報告されています。
天井落下は、地震などの揺れ、台風によって屋根ごと吹き飛んだ事例、雨漏り、湿気による劣化、経年劣化などが原因となって発生しています。

そのうち、今回は人的被害、事業継続に困難が生じた事例、その後の建築に関わる法令に影響のあった例を取り上げます。

2005年8月16日 スポパーク松森(宮城県仙台市) 原因:地震
宮城県南部地震で震度6弱の揺れが発生し、地震の直後にプール全体を覆っていた天井が落下しました。
約千平方メートルの天井が一部壁際から徐々に落ち始め、揺れが大きくなると、真ん中がどかんと落ちたそうです。
とっさにプールに潜った方もいたようですが、この天井落下によって26人がけがをしています。
施設は7月1日にオープンしたばかりでした。


2012年3月15日 某フィットネスクラブ某支店(神奈川県川崎市) 原因:不明
警察によると、プールサイドの天井が幅3メートル、長さ15メートルにわたって7メートルの高さから突然、落下したということです。
当時、水泳教室が開かれており、プールサイドにいた小学生2人がけがを負っています。
スポーツクラブの事業者によると東日本大震災後の天井点検では異常はなかったそうです。
この事業者は全国にフィットネスクラブを展開していることから、この日は各店舗のプールを閉鎖して安全点検を行うとともに、天井が落下した施設は当面の間プールの営業が中止されました。


2013年7月14日 静岡県富士水泳場(静岡県富士市) 原因:不明
当時の報道によると、天井が落下したのは14日の就業後から朝までの間で、14日昼間には中学生による県大会が開かれており、施設には2,000人以上の利用者がいたそうです。
落下した天井部分は長さ60メートル、幅5メートルの300平方メートル。
建物は鉄骨造で、梁は木製被覆が施されており、天井下地材(野縁)が梁の木部にビス留めされ、梁と天井にクリアランスは無かったそうです。

 

屋内プール天井の安全確保に関わる基準や規則

前述の静岡県富士水泳場で発生した大規模な天井落下が契機の一つとなり、同年8月、国土交通省が屋内プールの吊り天井に安全確保を求める技術的助言を出しています。(国住指第1852号、1853号)

この技術的助言は自治体の建築主務部長のほか、関係団体、関係省庁あてに通知されており、建物の所有者、管理者等に向けた周知徹底や必要な助言もお願い、とされています。

特に既存建物に関係する情報のため、建物の所有者、管理者、そして建物の改修に携わる設計者は踏まえた点検や対策が求められるため、注意が必要です。

 

国住指第1852号、1853号の概要
屋内プール天井等の大規模空間を持つ建築物の吊り天井について安全確保を図るためには、1.の対象となる建築物の部分について、2.のような対策が必要とされています。

1.対象となる建築物の部分
大規模空間のうちの吊り天井で、建築後、震度4以上の地震が観測されたもの
(大規模空間=天井高さ6メートル超かつ面積200平方メートル超の空間)

2.必要と考えられる対策
①天井面のゆがみや垂れ下がりの有無を目視等で点検+点検口から天井裏を目視し、クリップ等の天井材の外れが生じていないか点検
②点検の結果、天井材の外れ等の異常が発見され、天井の脱落のおそれがあると考えられる場合には、安全対策、所要の天井脱落防止対策を実施

(注)天井の脱落防止対策については、改正後の建築基準法施行令(平成26年4月1日施行)に基づく新たな天井の基準を参考とすることができます

この技術的助言によると、屋内プールの天井の脱落防止対策は、改正後の建築基準法施行令、つまり特定天井に求められる技術基準を参考とすることが示されています。

技術的助言は特に既存建物に関係しますが、加えて新築の場合にも関係する基準を見てみましょう。
屋内プール=一般的なプールと想定した場合でも、直上の天井が特定天井となり、技術基準を参考とした天井脱落対策が必要になる場合があります。
公益財団法人日本水泳連盟の『プール公認規則 2018』によると、25メートル一般プールとして推奨されている施設要領として、長さ約25メートル、幅約12~15メートル、深さ1メートル以上と記載されています。
例えば、プールサイドで天井高さが床面から5メートルを超える場合、プール底部からの天井高さは6メートルを超えることになります。

この場合、一般社団法人建築性能基準推進協会が公開している『建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説』平成25年12月27日Q&Aで、「プールの底面を床面として天井高さを算定~」と記載されていることから、一般的なプールの天井であっても、高さ6メートル超、水平投影面積200平方メートル超になる屋内プールの天井は、特定天井に該当し、技術基準をもとに建物内部を設計する必要があることが分かります。

 

具体的な計画・設計にどう取り組めばよいか

これまでの天井落下の事故とその教訓をもとに示された技術基準解説や規則を踏まえると、“一般的なプール天井”以上の規模を持つ屋内プールの場合、既存、新築を問わず、特定天井に求められる技術基準に基づいて、建物内部の計画、そして天井も安全確保に向けた設計を進めることが必要だと分かります。

屋内プールならではの課題と天井における課題解決、さらに安全確保を実現する対策方法もコラムで解説しています。
ぜひご一読ください。

 

▼屋内プールの維持管理/設計に携わる方は、ぜひご一読ください
【コラム】屋内プール天井の課題解決策とは?施設維持・設計のポイント解説

 

 

  • 関連情報

特定天井も関連する、天井の地震対策に関わる基準や法令とは

既存建物における、天井の地震対策の設計の進め方

特定天井とは?技術基準の解説と具体的な対策(桐井製作所 企業サイト)

 

  • 参考文献

経済産業省 長期データ『特定サービス産業動態統計調査 18.フィットネスクラブ』,2022
国土交通省『スポパーク松森における天井落下事故調査報告』

国住指第1852号、1853号『屋内プール等の大規模空間を持つ建築物の吊り天井の脱落対策について(技術的助言)』
一般社団法人建築性能基準推進協会『建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説』平成25年12月27日公開Q&A
公益社団法人日本水泳連盟『プール公認規則 2018』,2018
(一部、外部サイトへリンクします)

2022.08.22