天井の地震対策に向けた建築関連の法整備が進んでいます。基準や法令はここ数年でいくつも増えました。
建築基準法施行令で施行されていること、特定天井の技術基準で示された内容、文部科学省が求めている対策、公共建築工事標準仕様書の内容との違いなどを正しく理解し、活用・設計することが重要です。
建築基準法施行令第39条
天井は、第1項で「地震その他の振動及び衝撃によつて脱落しないようにしなければならない。」とされています。
すなわち設計者には、すべての天井に対して地震対策の設計が求められているのです。
さらに、天井脱落対策の規制強化として、第3項に特定天井の構造に関する条文が追加されました。この構造方法は国土交通省告示第771号に定められています。
平成25年国土交通省告示第771号
特定天井とはどのような天井か、またその構造方法を定めています。
特定天井は、6m超の高さにある、水平投影面積200㎡超、単位面積質量2kg/㎡超の吊り天井で、人が日常利用する場所に設置されているものと規定されています。
構造方法は『建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説』(※)で解説されていることから、設計者の多くがこちらを参考に天井の地震対策を検討しています。
※一般社団法人建築性能基準推進協会のサイトへリンクします
建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説
一般社団法人建築性能基準推進協会が、政省令や告示の解釈と技術上の留意事項をまとめたものです。
特定天井の構造方法として、①仕様ルート、②計算ルート、③大臣認定ルートと区分し、必要な計算方法や用いる部材の耐力・剛性の設定方法が示されています。
また既存の特定天井の落下防止措置も解説されています。
平成28年国土交通省告示第791号
特定天井の構造方法のひとつである仕様ルートに、周辺の壁等との間に隙間を設けない仕様が追加されたものです。
天井面は水平で、周囲の壁等との間に隙間を設けないこと、天井面を構成する部材と周辺の壁等は衝撃力を含む外力に対して損傷しないよう十分な剛性、強度が求められています。
学校施設における天井等落下防止対策のための手引
東日本大震災で、避難所となる学校施設で天井の全面落下が多数発生したことから、既存天井を点検・対策するために、文部科学省によって作成されました。
対象が、6m超の高さにある天井"または"水平投影面積が200㎡超の天井のため、特定天井とは対象が異なる点がポイントです。(特定天井では"かつ")
その後、平成26年発行の『屋内運動場等の天井等落下防止対策事例集』で、設計・監理や施工管理段階の留意点が示されています。
公共建築工事標準仕様書
「天井のふところが1.5m以上の場合は、(中略)吊りボルトの水平補強、斜め補強を行うこと」「天井下地材における耐震性を考慮した補強は特記による。」と示されています。
つまり、天井裏が高い場合の補強と天井の地震対策は別とされています。
天井の地震対策に向けた設計が必要
近年、大規模化している自然災害。特に警戒が高まっている地震では天井落下の被害は後を絶ちません。人々の安心・安全な暮らしを守る、またBCP環境の構築のために、天井の地震対策に関わる法律や文献などの情報を把握し、設計などの実務に活用することが大切です。
- 参考文献
建築基準法施行令第39条
平成25年国土交通省告示第771号一般社団法人建築性能基準推進協会『「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」(平成25年10月版)』,2013
一般社団法人建築性能基準推進協会『新たな特定天井の技術基準(天井と周囲の壁等との間に隙間を設けない仕様の追加)の解説(平成28年7月版)』,2016
文部科学省『学校施設における天井等落下防止対策のための手引』,2013
国土交通省『公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成31年版』,2020