天井の地震対策の設計

公立学校施設の天井耐震化に向けた具体策とは?補助金・助成金情報も

地震災害が大規模化している近年、耐震化と老朽化対策が先送りのできない課題となっている公立学校施設では、これらの対策と合わせて、建物への「木材利用」と「長寿命化改修」も進められています。

なおいずれの課題においても、それぞれで示されている事柄を整理すると、非構造部材の耐震対策も行うことが重要であることが分かります。

▼公立学校施設の計画および設計に関わる「木材利用」「長寿命化改修」の解説はこちら
【コラム】公立学校施設の新改築・増築・長寿命化改修に関わる、ガイドラインと施設計画に影響する取組み

非構造部材のなかでも、過去に人命や避難所機能に被害を出してきた「天井落下」は公立学校施設にとって解決しなければならない重大な事柄の1つです。

このことからこのコラムでは、公立学校施設の建物内部の地震対策に関する情報から天井耐震化に向けた具体策、さらに関連する補助金・助成金の情報もお伝えしますので、計画および設計にご活用いただければ幸いです。

 

建物内部に求められる対策を解説

学校施設の建物内部の地震対策に関する情報を、「学校施設整備指針」でみてみます。
(学校施設整備指針は、最新版が公表されている場合がありますので、都度、文部科学省のホームページからご確認くださいますようお願いいたします。)

学校施設整備指針とは、学校教育を進める上で必要な施設機能を確保するために、計画および設計における留意事項を学校種ごとにまとめたものです。
幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の5つについて示されています。

今回はこの中で小学校の情報から、「第5章 詳細設計」「第7章 構造設計」をみてみます。
なお、幼稚園や中学校、高等学校、特別支援学校についても各指針で同様の情報が示されています。

 

  • 第5章 詳細設計

【基本的な事柄】
「第1 基本的事項」の「1 安全性」に、教育の場として、地震や暴風、降雨、積雪、落雷等の災害に対して、十分な防災など安全性を確保するよう設計することが重要だと示されています。
また、本来児童が乗ることを想定していない天井裏等についても安全性の確保について配慮することも書かれています。

なお、地震、暴風時等における天井、照明等の脱落、破損や家具の転倒、落下の防止、経年・老朽化による仕上げ材等の落下の防止など、建物の構造体のみならず非構造部材の安全性を確保するため、適切な設計、仕様、工法とし、定期的に点検・維持管理を行うことが重要だとも示されています。*1


【建物内部の仕上げ】
「第2 内部仕上げ」に「3 天井、壁等」について示されています。

第5章 詳細設計
第2 内部仕上げ
3 天井、壁等

(1) 剥落するおそれのない工法を計画することが重要である。特に、地震時においても脱落・破損等により危険が生じないようにすることが重要である。その際、軽量な部材を採用することも有効である。

(9) 可動間仕切りを設ける場合は、壁体の重量、移動や固定の方法等を十分検討し、仕様、形式等を設計することが重要である。また、適切な遮音性を有する仕様とすることが望ましい。

(出典)文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部「小学校施設整備指針」
https://www.mext.go.jp/content/20220624-mxt_kouhou01-000023406_02.pdf

つまり、天井と壁には地震時を想定して脱落・破損等の危険が生じないよう計画および設計される必要があることが分かります。
なお軽量な部材を採用することも有効だと示されている一方で、天井は、本来児童が天井裏に乗ることを想定していないものの安全性の確保について配慮することが求められています。

 

  • 第7章 構造設計

【基本的な事柄】
「第1 基本的事項」の「1 安全性能」に、児童生徒が学習、生活等の場として過ごすだけでなく、学校開放時や緊急の災害時に地域住民等が利用することも考慮して、十分な安全性を確保するように計画および設計することが重要だと示されています。

また、天井や照明器具等の非構造部材について、落下・破損等の防止に十分配慮することが重要だとも示されています。
「3 地震・風による水平力に対する設計」や「6 その他」にも、建物内部の地震対策に関して同様に書かれています。*1


【既存施設の耐震化】
「第4 既存施設の耐震化推進」に「3 非構造部材等の耐震化対策」について示されています。

第7章 構造設計
第4 既存施設の耐震化推進
3 非構造部材等の耐震化対策

屋内運動場や校舎等における天井材、体育器具、照明器具、電気・機械設備機器、家具等の非構造部材等についても早急に耐震点検を行い、破損・落下等による危険のないように十分な耐震化対策を講じることが重要である。

(出典)文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部「小学校施設整備指針」
https://www.mext.go.jp/content/20220624-mxt_kouhou01-000023406_02.pdf

つまり、既存の学校施設の場合は、屋内運動場も校舎も天井を含む非構造部材の耐震点検を早急に行うこと、そして破損・落下等による危険がないように耐震化対策を講じることが重要だと分かります。

 

耐震化に向けた「天井」の具体策

学校施設整備指針から建物内部の地震対策に関係する情報をみてみると、新改築・増築の場合には「非構造部材の耐震化の計画および設計」、既存施設の場合にはまず「非構造部材の耐震点検」が必要だと分かります。

非構造部材のなかでも「天井」は過去、地震の揺れや老朽化を主因とする崩落、落下、破損等によって人的被害や避難所が機能できないといった事態を生じさせてきました。
このため、ここからは学校施設の建物内部のなかでも「天井」に焦点を当てて、新改築・増築・改修の場合の具体策をみていきたいと思います。

新改築・増築の場合:天井耐震化の計画および設計

現在、屋内運動場等の大規模空間の天井耐震化はおおむね完了したとされていますが、屋内運動場等の吊り天井等以外の非構造部材の耐震対策が未実施の施設は全体の約4割にも上ることから、校舎等への対策の取組みが進められています。
※屋内運動場等以外の校舎などの天井、照明器具、窓・ガラス、外壁、内壁 など

なお、過去の被害から部屋の大きさは天井落下の原因ではないと考えられているものの、空間規模によって天井耐震化の方法が指定される場合があります。
また例えば屋内プールの天井は湿気や結露への対策が同時に必要になるなど、部屋の環境特性を踏まえる必要がある場合もあります。

▼空間規模によって異なる天井耐震化の方法はこちら
【コラム】KIRII耐震天井と告示771号対応天井の違い

▼屋内プールならではの天井の課題と解決策のポイントはこちら
【コラム】屋内プール天井の課題解決策とは?施設維持・設計のポイント解説

そのほか、部屋ごとの天井耐震化にあたってのご相談や対策にお困りの方はお気軽にお問合せください。
業界初の地震からいのちを守る天井「KIRII耐震天井」の研究開発ノウハウを活かした専門性の高いアドバイスをご提示します。

改修の場合:まずは天井の耐震点検

下から見上げて壊れていない天井、落下しなかった天井も天井裏では破損しているケースがほとんどだと示されています。
日本耐震天井施工協同組合(通称「JACCA(ジャッカ)」)によれば、2016~2018年までの3年間に調査した天井のうち、約8割もの天井下地材に破損等が発見されています
※調査数167件のうち、129件の天井下地材に変形・破損等が見られたと報告されています

なお、天井下地材は日ごろ生活をする中では見かけない部材で構成されていることから、外れや損傷などを見分けるには、実は専門的な知識や視点が欠かせません。

改修を想定する場合には、天井下地材を吊り下げている支持構造部の状態確認も重要になりますので、改修や確認申請を必要とするような増築の際には天井の専門家による天井耐震診断を検討していただくことも必要かもしれません。

▼天井耐震診断の専門家が解説する診断に関する基礎情報はこちら
【コラム】地震による天井落下・被害を防止するための天井耐震診断

 

天井耐震化に関係する補助金・助成金

公立学校施設の天井耐震化と天井の耐震点検に関わる補助金・助成金の情報です。
情報に関する問い合わせ先、手続き先は管轄の市区町村となります。
なお、コラム公開時点の情報のため、ご検討される際は、所轄の自治体様にお問い合せいただけますようお願いいたします。

  • 公立学校施設整備費負担金

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm

[負担金の趣旨]
公立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の小・中学部における校舎・屋内運動場(体育館)等を新築又は増築する場合等に、その経費の一部を国が負担することによってこれらの学校の施設整備を促進し、教育の円滑な実施を確保します。

文部科学省ホームページ「国庫補助事業について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm

 

  • 学校施設環境改善交付金

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm

[負担金の趣旨]
公立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の小・中学部における校舎・屋内運動場(体育館)等を新築又は増築する場合等に、その経費の一部を国が負担することによってこれらの学校の施設整備を促進し、教育の円滑な実施を確保します。

文部科学省ホームページ「国庫補助事業について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm

文部科学省が公表している「令和5年度 概算要求のポイント」では、施設の耐震化も挙げられていることから、今後も補助金・助成金が整備される可能性があると考えられます。*2

 

まとめ

公立学校施設の建物内部の地震対策に関する情報から天井耐震化に向けた具体策、さらに関係する補助金・助成金の情報をみてきました。

学校施設整備指針の「詳細設計」「構造設計」の情報から、天井耐震化の重要性を確認することができました。

このため、具体的な対策方法としては、新改築・増築の場合には天井耐震化の計画および設計、改修の場合には天井の耐震点検が求められていますので、関係する補助金・助成金の情報なども、計画および設計にご活用いただければと思います。

ポイントまとめ

公立学校施設における天井耐震化に向けた具体策

新改築・増築の場合 → 天井耐震化の計画および設計
改修の場合     → まずは天井の耐震点検から

 

なお学校施設の整備・活用のご参考情報として、文部科学省が「CO-SHA Platform(文部科学省サイトへリンク)」を開設しています。
アドバイザーへの相談や新たな学校施設づくりのアイデア紹介、ワークショップ開催などの情報が集まっていますので、学校の施設整備にお困りの方はまずこういったサイトをチェックしてみてもいいかもしれません。

児童生徒、教職員、そして地域住民の皆様の安心・安全に向けた公立学校施設整備の計画および設計の一助になれば幸いです。

 

参考文献
*1文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部「小学校施設整備指針」,令和4年6月
*2文部科学省「令和5年度 概算要求のポイント」,令和4年8月

2023.02.20