天井の地震対策の設計

多様化する物流施設の地震に備える天井耐震化

全国に急増している物流施設。施設へのニーズが変化していることで必要とされる空間も多様化しています。

一方で、建物や空間には近年大規模化している地震への対策に目を向けることも大切です。

施設を管理運営・計画・設計する上で、多様化する空間の安全確保に向けて、天井の地震対策としてどんなことが考えられるか、近年の物流施設の在り方や現在進行形で変わりつつあるニーズも押さえながらお伝えしたいと思います。

 

変化を続けている物流施設の在り方

近年、物流を取り巻く環境が変化していることで、施設の在り方も大きく変わっています。

1990年代前半は、荷物の持ち主や送り主から送られる物を保管することを主な事業とする「保管型の物流施設」が主流で、1990年代後半頃からは、荷物の持ち主・送り主のコスト削減やサプライチェーンの最適化といったニーズの変化に対応し、物の保管だけでなく、高機能な設備の導入や流通加工スペースの確保など、保管以外の付加価値をつけた「配送型物流施設」に移行が進んだとされています。

さらに近年では、企業にとって自前で物流施設を持っていると環境の変化に対応しにくいなどといったことから、賃貸型物流施設(いわゆる物流不動産)が急速に増加したと言われています。

(出典)国土交通省ホームページ

なお賃貸型物流施設はその形態から大きく2つに分類されています。
1つはBTS(Build to Suit)型で、特定のテナントの要望に沿った立地・構造・設備(例えば冷蔵・冷凍設備など)を兼ね備えた、いわばオーダーメイドの専用施設です。
もう1つがマルチテナント型で、1棟の施設を複数のテナントに賃貸する形態です。多種多様なニーズに対応できるよう整備されます。

 

物流施設の開発機運を高めているEC拡大

日本の個人向けEコマース(EC)市場規模は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年を除いて、年々拡大を続けていることが報告されています。

BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)
(出典)経済産業省ホームページ

この市場拡大はまだ進み、これからも増加を続けて2026年には今の約1.4倍の規模(約29兆円)になるという見立てもあります。

 

物流施設が居住地の近くで求められる可能性

拡大を続けるEC市場で、近年、最も伸び率の大きい物販系分野の内訳を見てみると、中でも食品類(食品、燃料、酒類)が規模拡大を押し上げた要因であったと言われています。
ただ、EC化率は他と比べると低く、今後の成長の余地の大きさがうかがえるのではないでしょうか。

物販系分野のBtoC-EC市場規模
(出典)経済産業省ホームページ

食品類のEC化率が増加すると、物流施設には冷蔵・冷凍設備、厨房設備などが求められる可能性があります。

また、食品類の輸送では鮮度管理も重要課題となります。
こういったことなどから、近年では、物流における最終拠点からエンドユーザーに届くまでの区間を「ラストワンマイル」と呼び、その重要性が注目されています。
エンドユーザーの居住地に近いことが物流施設の適地要件として重視されると言われています。

 

物流施設を新築・改築・改修する場合に解決すべき課題

EC市場の拡大やその中でも食品類の輸送増加の可能性などによるラストワンマイルをつなぐ拠点の重要性を受けて、物流施設の開発機運が急速に高まっています。

施設を新築したり、既存の倉庫をリニューアルしたりする場合、地震大国と言われる日本において災害対策の視点で計画または設計することも大切です。
特に近年、大規模地震の懸念が高まる中で地震対策は急務と言えます。

建築着工統計によると、倉庫は高度成長期の1970年前後に最も多く着工されています。
このことから、全国の倉庫のうちの約30%は旧耐震基準の建物だと推計されます。

(出所)国土交通省資料をもとにCBRE作成、BZ空間誌 2020年夏季号 掲載

なお、いわゆる「旧耐震基準」「新耐震基準」は建物の構造部分に関する事柄です。
保管する荷物や働く人々の安心・安全を確保するためには構造部分と共に建物内部の地震対策にも目を向ける必要があります。

例えば過去、地震が起きると、建物の構造部分には破損・損壊が無くても、建物内部では天井が落下したり壁が倒壊したりするなど人的・物的被害が数多く発生してきました。
直近では2022年に起きた地震で文化施設のホールの天井が落下し、施設はしばらくの間、営業が停止されています。

こういったことから、物流施設を新築・改築・改修する場合、人的・物的な面での安全確保はもちろん、事業資産の損害を最小限にとどめるBCP(事業継続計画)としても、天井の地震対策を計画または設計することが大切だと言えます。

 

物流施設における、天井の地震対策とは?

近年、ニーズの多様化で対応する空間も様々見られます。
例えば、商品や荷物を保管する空間、事務所スペースのほか、マルチテナント型の場合はフィットネスジムやレストラン、託児所など、BTS型の場合は冷蔵、冷凍、食品加工などに対応する空間を備えている例もあります。

大規模な空間

建築基準法に基づいて、定められた天井脱落対策への適合が求められる場合があります。
高さ6m超にある200㎡超の吊り天井、新築建築物への義務付けですので、対象に当てはまる場合には基準に基づいた計画および設計が必ず必要です。
この法令や対策に関する詳しい情報を別コラムで紹介していますので、関わる方はぜひご覧ください。

▼対象となる天井、定められた天井脱落対策を詳しく解説
【コラム】KIRII耐震天井と告示771号対応天井の違い

 

事務所、フィットネスジム、レストラン、託児所など人が過ごすスペース

地震の揺れによる天井落下で人的・物的な被害が出ないことを目指す場合、耐震天井やシステム天井などが考えられます。

天井の地震対策(一例)
耐震天井

業界でもっともポピュラーな天井の地震対策です。

耐震Power天井(桐井製作所)

▼耐震Power天井の特徴やCADデータなど詳しい情報はこちら
【製品情報】耐震Power天井(桐井製作所 企業サイト)

<!>上記の天井工法は対策の一例です。詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。

システム天井

大規模オフィスの執務室で取り入れられることが多い天井です。

耐震Power eグリッドの事例:oak港南品川 執務室(桐井製作所)

▼耐震Power eグリッドの特徴やCADデータなど詳しい情報はこちら
【製品情報】耐震Power eグリッド(桐井製作所 企業サイト)

<!>上記の天井工法は対策の一例です。詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。

その他のニーズに応じた空間

耐風圧性能への考慮や湿気の影響を心配する環境など、空間によって天井に求められる性能が大きく異なる場合が考えられます。
必要性能と地震対策を両立する天井工法はメーカー各社によって様々ですので、詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。

既存施設で天井の地震対策をする場合/増築で既存天井に地震対策が求められる場合

まずは今ある天井の状況を知ることがスタートです。
天井下地材を吊り下げている支持構造部の状態確認も重要になりますので、改修や確認申請を必要とするような増築の際には天井の専門家による天井耐震診断を検討していただくことも有効です。

▼天井耐震診断の専門家による診断の基礎解説
【コラム】地震による天井落下・被害を防止するための天井耐震診断

 

まとめ

近年、EC市場の拡大やニーズの変化などから物流施設が急速に増加し、その在り方も変化しています。
さらに地震大国と言われる日本では、建物構造だけでなく天井をはじめとする建物内部の地震対策にも目を向けることが大切です。

大規模地震の発生が全国各地で懸念されていますので、人的・物的被害を考えた対策としてだけでなく、事業継続(BCP)の面でも天井の地震対策を検討してみてはいかがでしょうか。

天井の地震対策をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
株式会社桐井製作所は耐震天井を業界で初めて研究開発・販売開始しました。
公共施設から民間施設まで全国1万件以上の施設の安心・安全を天井から支えています。
これまでの知見や蓄積した技術力で、建物の計画または設計、工事に携わる方など、皆様それぞれのご状況に応じてサポートさせていただきます。

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2023.05.31