意匠性と地震対策を実現する天井下地とは?納まりと課題解決策を解説

意匠性と地震対策を実現する天井下地とは?納まりと課題解決策を解説
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コラム「特定天井で意匠を実現!勾配や段差部の計画・設計ポイント」では、特定天井の意匠的な要素となる主な箇所として、勾配、段差部、端部、照明器具との納まりが挙げられ、それぞれの箇所でクリアランスを設けるか否かが天井デザインに大きく影響することが分かりました。

またそれによって天井下地の構造方法が『耐震化』『準構造化』と異なることから、採用する方法によって吊り元や建物構造部の検討にも影響が及びます。

本コラムでは、特定天井の要件に相当する空間規模で、複雑な折り紙形状の天井で地震対策も行われた『多摩信用金庫本店 エントランスホール』における各部の納まりや吊り元部分、建物構造部との取り合いと解決策のことを、天井の技術的なサポートを行った、桐井製作所 東京支店イノベーショングループ所属の担当者に聞きました。

建物計画、設計に携わる方のみならず、施工管理、積算、そして天井工事に携わる方も、設計や現場での納まり検討の際に参考にしていただければ幸いです。

 

天井の意匠的な要素となる各部納まりの課題

―――天井の意匠的な要素として、勾配、段差部、端部、照明器具との取り合いが考えられますが、『多摩信用金庫本店 エントランスホール』ではどのような納まりが検討されたのでしょうか。
またほかの現場で直面することが多い各部納まりの課題もあれば、あわせて教えてください。
  • 勾配

<頂部>
天井には勾配が複数あり、ほとんどの勾配頂部で下がり壁に接続する形になっていました。この情報だけで天井の提案方針を考えた時、勾配頂部と下がり壁の接点で縁を切れる状態であれば耐震天井(吊り天井)として『耐震化』対策が視野に入り、縁を切らない構成・意匠であれば準構造耐震天井として『準構造化』の対策が優先であるという整理になります。

多摩信用金庫本店エントランスホールの天井全体イメージ

こういった情報も判断材料に加わり、今回の現場では全ての天井下地を連結するという方針となり、準構造耐震天井である『KIRIIアングルクランプ(桐井製作所企業サイト)』を採用した施工方法で実施されることになりました。

ほかの物件においても天井工事段階においてこういった細かなディテール対応から『耐震化』『準構造化』『軽量化』などといった大きな方針変更に影響することがあるものの、設計初期には見えづらい部分である点が課題だと感じています。

施工の方針変更によって工期やコストに大きく影響してくる場合がありますので、提案させていただく立場としても注意すべき点であると認識しています。

また、本物件の準構造耐震天井でもう1つ課題として挙げられていたことが鉄骨精度です。
KIRIIアングルクランプ(桐井製作所企業サイト)のタテ方向の調整代はあくまで鉄骨から見た面外方向の調整代のため、立体的な形状で自由に動くものではありません。
このため、天井工事に入る前の工程である鉄骨工事において精度が要求されることになります。

 

<谷部>
天井が立体的な造形であったため、施工の検討段階において、場所ごとの納まりを想像することが容易でなく苦労しましたが、実施工の段階では施工する方々が更に苦労をされていたようでした。
勾配の谷部・頂部ともに交点ポイントや基準位置を、地墨を上げられない仮設足場上で扱う必要があったことから、より多くの図面情報が必要となり、設計図・施工図での情報量がキーポイントでした。

なお、ほかの現場で見受けられるケースとして、勾配谷部が頂点となる逆三角(逆さの切妻)形状の場合は、その頂点部の角度によっては天井下地である野縁どうしがぶつかってしまうため仕上げ材のはね出しが長くなり、仕上げ材の端部まで設置できない、といった課題に直面するケースもあります。

勾配谷部で天井下地(野縁)どうしがぶつかってしまう例

  • 段差部

納まりの課題は勾配頂部と同様でしたが、準構造耐震天井『KIRIIアングルクランプ(桐井製作所企業サイト)』を採用した施工方法で実施されました。

もし耐震天井にする場合は、ブレース(斜め部材)の使用材料や施工数量を計算する上で端部の段差部分の重量も天井重量に含める必要がありますが、稀に見落とされていることがあるため、設計時から、そして積算時にも注意していただきたいポイントです。

 

  • 端部

端部納まりには建物構造が大きく影響します。
例えばこの物件でもそうであったように、鉄骨造の場合は"端部の天井はね出し"の納まりによく問題が生じます。

現場でよくある例として、躯体壁面に天井が取り合う納まりの場合、梁(H型鋼)が壁面近くに設けられることが多いため、天井下地の端部を吊るための吊り元がデッキスラブに設けられず、野縁や野縁受けが大きくはね出す納まりにせざるを得ないことがあります。

梁(H型鋼)が壁面付近に設けられている場合の納まりイメージ

今回の現場は準構造耐震天井のため、KIRIIアングルクランプ(桐井製作所企業サイト)を設置する鉄骨母屋が途中で終わってしまう、つまり梁(H型鋼)より先に鉄骨母屋を固定できる部分がなく、鉄骨母屋を設置できるのは梁(H型鋼)までだったことから、施工図が検討されている段階でこの固定方法の解消策が検討される必要がありました。

 

各部納まりにおける課題解決策

―――各部納まりの課題はどのように解決されたのでしょうか。またもし天井工事に入るよりも前に検討や解決されていると良いことがあれば教えてください。
  • 勾配

<頂部>
この物件の勾配頂部の課題であった鉄骨精度は、KIRIIアングルクランプ(桐井製作所企業サイト)の調整代の寸法内で設けていただくようお願いしました。

これまで携わった現場では、内装工事店が鉄骨母屋をハンガーで吊って精度を出し、それを鉄骨工事で固めてもらい、鉄骨母屋が固定されてから再び内装工事店が天井工事に入る、といったように工程を組みなおして精度補完していた例もありました。

鉄骨工事で精度を出す場合も、天井工事の段階で先行工事を発生させる二重工程にしても、どちらも施工手間は発生してしまうので、設計や実施設計などの時点で天井下地が検討され、天井下地工事前に十分なコストが計画されていれば理想的だと思います。

 

<谷部>
ほかの現場で見受けられるケースとして挙げた逆三角(逆さの切妻)形状の場合に野縁どうしがぶつかる課題に対して、頂点のラインを真っ直ぐに通すために折り曲げ鉄板を使って接続する例もあります。

材料・施工のコストは上がりますが、仕上げ材のみで矩手や角度付きの頂点を出す作業よりも頂点のポイントを出しやすく、頂点のラインを真っ直ぐ綺麗に通すことができます。

勾配谷部で折り曲げ鉄板を天井下地に使う例

 

  • 段差部(立ち上がり・折り上げ)

段差部も天井全体の一部として一体となっている(クリアランス等で縁が切れていない)場合、段差部の重量は天井重量のうちとして計上し、計算に漏れの無いよう扱っていただければと思います。

立ち上がり部の寸法が大きい場合は、重量が大きく増えるためブレース(斜め部材)の設置数量に影響が出るケースがあります。簡易に積算した数量では不足することも考えられますので注意が必要です。

 

  • 照明器具との納まり

通常の在来天井形状への間接照明として納める場合、デザイン上可能であれば、照明を設置する突き出し部分にも天井下地を設置することから、野縁・野縁受けの設置寸法として最低57mm程度以上確保していただければと思います。

天井本体部の天井下地である野縁受けをそのまま延長させることで突き出し部の強度も保つ狙いがありますので、気にかけていただければと思います。

なお天井下地が57mmに満たない納まりで設計されている物件も見かけますが、例えば20mmで野縁しか入らない場合は、天井本体部が耐震化や準構造天井化されていても間接照明を納めた天井部分の強度には懸念が残ることになります。

間接照明の納まり例

  • 端部

先に記載した"梁(H型鋼)直下が天井端部になるケース"においては、準構造耐震天井で計画している場合は鉄骨工事の段階から梁(H型鋼)に天井下地を固定するための部材などを設置していただくと工期への影響なく天井工事に取り掛かることができます。

一方で、耐震天井(吊り天井)で設計されている場合は、梁(H型鋼)を回避した先のデッキスラブにインサートを仕込んでおくなど、構造や躯体の納まりに応じて複数の手段が考えられます。

またこのようなことから、端部にブレース(斜め部材)配置を計画してしまうと吊り元上部まで設置できない可能性があるため、設計や実施設計の段階においては天井端部へのブレース(斜め部材)の配置計画を避けていただくなどの工夫が必要です。

加えて、内装工事が始まる段階では梁(H型鋼)は耐火被覆されていることがほとんどで、その場合は吊り元を設置するための加工が難しくなります。

端部納まりを踏まえた吊り元は、工期やコストに影響を出さないためにも、設計や実施設計などの早い段階で解消策を検討しておくことが大切です。

 

意匠性と地震対策を実現に向けて、特殊な納まりにお困りの方へ

特定天井の要件に相当する空間規模で、複雑な折り紙形状の天井で地震対策も行われた『多摩信用金庫本店 エントランスホール』で検討・実施された準構造天井化の納まり、耐震化する場合の納まり、そして双方の課題解決策、検討するタイミングなどをお伝えしました。

特定天井で意匠を実現するため、また工期やコストに大きな影響を出さないためには、天井全体のデザインを検討する段階で天井下地を含めた各部納まりも一緒に検討しておくことが重要だと分かります。

しかしながら天井デザインは一様ではなく、施設それぞれ個性豊かなことから、各部納まりもそれぞれ特殊でほとんどが一点ものです。

建物計画、設計で意匠の実現にお悩みの方、施工管理、積算、そして天井工事に携わっている方で各部納まりにお困りの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

解消策の方針提案や納まりに関するアドバイス、ブレース(斜め部材)数量の計算サポートなど、柔軟に対応いたします。

 

  • 関連情報

【製品情報】準構造耐震天井『KIRIIアングルクランプ』(桐井製作所 企業サイト)

【導入事例】『多摩信用金庫本店 エントランスホール』(桐井製作所 企業サイト)

【開発ストーリー】業界初!KIRII耐震天井の誕生秘話(桐井製作所 企業サイト)

2022.11.28
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