特定天井は、その天井および空間規模から、例えばエントランスホールや文化ホール、音楽ホール、映画館など、多くの人が訪れる空間、また音響計画が伴って必要となる空間にあることが多く、そのため意匠性に富んだ天井デザインが多く見られます。
しかしながら、特定天井の構造方法が示された技術基準によれば、従来の『吊り天井』形式で計画・設計を進めようとすると、その天井デザインを実現するには計画時や基本設計の段階から天井下地の構造方法を検討しておく必要があることが分かります。
今回は天井デザインの実現に向けて、まずは技術基準が影響する箇所と計画・設計における課題を解説します。
そもそも特定天井とは
吊り天井であって、次のいずれにも該当する天井のことを指します。
・居室、廊下その他の人が日常立ち入る場所に設けられるもの
・高さ6メートルを超え、天井部分の面積が200m²を超えるもの
・天井面構成部材等の単位面積質量が2kgを超えるもの
2011年に発生した東日本大震災での天井落下による事故が大きなきっかけとなり、平成26年4月1日に、天井脱落対策に係る一連の技術基準告示として施行されました。
このため、これ以降に新築する建物や大規模改修等で確認申請を必要とする建物で特定天井がある場合には、この技術基準に示された対策を行う必要があります。
▶ 特定天井と技術基準 さらに詳しい解説(桐井製作所 企業サイト)
技術基準による天井や空間のデザインへの影響
従来、一般的な『吊り天井』形式の構造方法とする場合、技術基準に則ると、壁や柱、建築物に取り付けるものとの間に、6cm以上の隙間(以下「クリアランス」)を設ける必要があります。
6cm以上のクリアランスが壁際や勾配部、段差部などに見えると見た目に大きな影響が生じると考えられます。
このクリアランスも含めてデザインの一部として設計されているケースも数多くありますが、意匠性や音響への配慮などで、壁際にクリアランスを設けない設計をしたい、天井面にクリアランスを設けずに勾配や段差部、折り上げ部を設計したい、といった声も多く聞かれます。
<備考>
天井面が水平で、必要とされる剛性、強度が確認できる天井下地を使用することでクリアランスを設けない天井とする基準も示されています。
クリアランスが影響する天井デザインとそれぞれの課題
クリアランスが影響する天井デザインとして、勾配や段差部、壁際との納まり(端部)、照明器具との取り合いが考えられます。
それぞれ、従来一般的な『吊り天井』形式の構造方法で検討されている場合には、船底天井(勾配頂部が頂点となる切妻形状)であれば、中央交点部分にはクリアランスが必要になります。
クリアランスを設けることでデザインに影響が出ますので、クリアランスを設けないデザインにする場合は準構造耐震天井などにする必要があります。
また勾配頂部が下がり壁と接続する場合には、頂部と下がり壁の接点で縁を切れる状態であれば耐震天井(吊り天井)として『耐震化』の対策が視野に入り、縁を切らない構成・意匠であれば準構造耐震天井として『準構造化』の対策が優先されます。
勾配の谷部、さらに段差部、端部の課題も同様です。
なお技術基準では、従来一般的な『吊り天井』の場合は基準に則って天井下地を検討すること、準構造耐震天井のような"吊り天井以外の天井"は設計者の判断により安全を確保することが求められています。
ちなみに、天井の『準構造』とは
天井の『準構造』の概念は以下のように提案されています。
準構造
重量天井などを仕上げ材の延長で実現することをやめ、構造材として設計施工を行うものであり、構造として監理された安全な重量天井面を実現するものである。
(出典)日本建築学会 非構造材の安全性評価及び落下事故防止に関する特別調査委員会「天井等の非構造材の落下事故防止ガイドライン」2013年3月4日版
天井デザインの実現に向けた、具体的な対策方法とは
特定天井の意匠的な要素となる主な箇所として、勾配、段差部、端部、照明器具の納まりが挙げられますが、クリアランスを設けるか否かが天井デザインに大きく影響することが分かります。
またそれによって天井下地の構造方法が『耐震化』『準構造化』と異なることから、採用する方法によって吊り元や建物構造部にも影響が及びます。
次のコラムでは、特定天井の要件に相当する空間規模で、複雑な折り紙形状の天井で地震対策も行われた『多摩信用金庫 本店 エントランスホール』の事例において、それぞれの納まりがどのように解決されたか紹介するとともに、吊り元や建物構造部における解決策など、具体的な対策方法をお伝えします。
▼現場の技術サポート担当者の視点で紐解く 特定天井の勾配・段差部・端部などの納まりを詳しく解説
【コラム】意匠性と地震対策を実現する天井下地とは?納まりと課題解決策を解説
天井の地震対策「KIRII耐震天井」納材事例のご紹介
多摩信用金庫 本店 エントランスホール
メインエントランスは多摩信用金庫本店やたましん美術館に来訪する全ての方が行き来する空間のため、高いレベルで安全性を確保する必要があり、天井も地震対策が検討されました。
▼ 建物のコンセプトや施主様の想い、導入された天井をご紹介
多摩信用金庫 本店 エントランスホール|導入事例|天井の地震対策 - 桐井製作所
- 関連情報
・【導入事例】『多摩信用金庫本店 エントランスホール』(桐井製作所 企業サイト)
・【開発ストーリー】KIRIIが天井の地震対策に取り組む想いとその技術(桐井製作所 企業サイト)
参考文献
日本建築学会 非構造材の安全性評価及び落下事故防止に関する特別調査委員会「天井等の非構造材の落下事故防止ガイドライン」,2013年