知ってると安心 身近な施設の地震対策

ホテル・旅館の新規開発・修繕に役立つ 建物内部の地震対策

ホテル・観光業は、いま、大きな転機を迎えていると言われています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が宿泊需要に影響し、ホテル稼働率が著しく低下した状況が続きましたが、2022年10月からは水際対策が大幅に緩和され、現在まで訪日外客数が増加傾向にあります。
日本人の国内旅行も、全国旅行支援が活用されることで段々と増えつつあるようです。

今後、宿泊需要の回復が予想されているホテル・旅館について、特に近年大規模化している地震への対策検討に向けて、まずは施設の抱える課題をみていきたいと思います。

 

ホテル・旅館は10年で約5倍に増加

厚生労働省「衛生行政報告例」によると、2021年度のホテル・旅館営業の施設数は全国で50,523件(前年度比約99%)でした。
10年前は9,863件だったことから、10年で約5倍に増えたことが分かります。
また地域によらず増加していて、なかでも三重県、徳島県、福井県、山梨県では10倍以上になっていました。

ホテル・旅館施設数の変化(2011年度・2021年度)
(出所)厚生労働省「衛生行政報告例」

また2023年以降も訪日外客数増加によるインバウンド需要を見込んだ全国各地での高級ホテルを中心とする建設計画がいくつも発表されています。

 

日本ではホテル・旅館は避難先の対象

災害大国と言われる日本にあって、ホテル・旅館は避難先の対象になっているケースがあります

市町村は、指定避難所だけでは施設が量的に不足する場合には、国や独立行政法人等が所有する研修施設、ホテル・旅館等の活用も含め、可能な限り多くの避難所を開設し、ホームページやアプリケーション等の多様な手段を活用して周知するよう努めるものとする。特に,要配慮者に配慮して、被災地域外の地域にあるものを含め、ホテル・旅館等を実質的に福祉避難所として開設するよう努めるものとする。

(出典)内閣府政策統括官(防災担当)付 参事官(避難生活担当)「災害時におけるホテル・旅館の避難所としての活用について」,令和3年12月17日

また、令和2年4月以降は、新型コロナウイルス感染症等の状況を踏まえた活用として以下のような留意点が自治体に向けて通知されています。

〇高齢者・基礎疾患を有する者・障がい者・妊産婦・訪日外国人旅行者等及びその家族等を優先的に避難するように検討することが考えられるため、優先順位の考え方を決めておくとともに、事前にリストを作成し、災害時には、避難所として開設したホテル・旅館等に、上記優先順位を踏まえつつ、受け入れを図ること。

〇避難が長期にわたると見込まれる場合には、健康な人等を含め、できるだけ早期に、ホテル・旅館等に移送することが望ましいこと。

(出典)内閣府政策統括官(防災担当)付 参事官(避難生活担当)「災害時におけるホテル・旅館の避難所としての活用について」,令和3年12月17日

ホテル・旅館は、避難先として活用される可能性があることから、事業運営者には様々な状況の人が避難生活を送る可能性があることを想定した施設整備が求められています

 

今後のホテル旅館事業の建物に関わる課題

人が大勢集まる施設、そして災害が大規模化する中で避難先になることが想定されることから、建物の課題として、「施設の老朽化対策」「長期化・拡散化する避難生活への対応」が考えられます。

施設の老朽化対策

ホテル・旅館などの経営状況などを聞いたアンケート調査の結果によると、経営課題として「人材不足」「売り上げ向上」に次ぐ3位に「施設の老朽化・リニューアル」(41.4%)と報告*1されています。

この10年で新たに運営が開始されたホテル・旅館が多かった一方で、築年数を経た多くの施設では老朽化への対策として、修繕・更新に目が向けられています

長期化・拡散化する避難生活への対応

近年、自然災害が大規模化していることから、避難生活が長期化しています。
東日本大震災では、ライフラインの寸断や原子力発電所の被災などによって、主要被災県だけでなくそれ以外の都道府県への避難者も数多く報告されました。

(出典)総務省消防庁ホームページ

また地震発生から4カ月経った時点でも、全国に拡散した避難者のうち約4分の1の人が、ホテル・旅館で避難生活を送っていました。

(出所)内閣府「全国の避難者等の数」(2011年8月3日)

大規模地震発生後には、避難生活の長期化・拡散化、そしてその避難先としてホテル・旅館が活用されていることが分かります。
また最近では台風被害の避難先としてホテル利用がよく報道されていることからも、ホテル・旅館での災害対策はますます重要度が増しています。

 

避難先となるホテル・旅館に求められる建物としての対策とは

建物内部の地震対策を伝える『なゐふるまち』では、特に地震に焦点を当てて対策方法を考えてみます。

過去の地震の揺れによる建物内部の被害事例をみると、天井の地震対策が大事なポイントだと言えます。
天井落下・崩落が起こると、人的・物的な被害だけでなく、施設がしばらくの間営業停止になる恐れもあります。
2019年には地震の影響で指定避難所の天井が落下し、避難先として使用できない事態がありました。その後2022年には大規模集客施設で地震の揺れによる天井落下被害と一時の事業停止が報告されていること、2023年の能登地震でも総合病院で天井の一部が落下していることから、未だ被害は無くなっておらず、人が集まる施設、そして避難先の対象となる施設での天井の地震対策は急務です。

ホテル・旅館の天井の地震対策は別コラムで解説していますので、ぜひご一読ください。
【コラム】ホテル・旅館の防災・BCPに向けた天井の地震対策

 

参考文献
*1
観光経済新聞「【データ】旅館・ホテルアンケート調査 観光経済新聞調べ」,2022年1月

2023.06.26