毎日多くの人が訪れるホテル・旅館などの宿泊施設。
近年、大規模地震の懸念がさらに高まり、いつどこで起きるか分からないことから、人が大勢あつまるホテル・旅館はその対策が急務と言えます。
なかでも天井の地震対策は大事なポイントです。
地震による揺れで天井落下・崩落が起こると、人的・物的な被害だけでなく、施設がしばらくの間営業停止になる恐れもあるため、防災やBCPの視点でも取組みを考えることをお勧めします。
では具体的にはどのような対策を行えばよいのでしょうか。
このコラムではホテル・旅館の各スペースにおける天井の地震対策を解説します。
ホテル・旅館の各空間と天井の地震対策
ホテル・旅館といっても施設タイプは様々です。前述の観光庁の観光統計でも旅館、リゾートホテル、ビジネスホテル、シティホテル、カプセルホテルも含まれる簡易宿所などと大別されています。
客室は共通するものの、付帯施設は多岐多様です。
付帯施設はホテル・宿泊施設によって独自性の高い空間もありますので、今回は一般的に設けられることが多い空間を中心に取り上げ、地震を想定した場合の課題と天井の地震対策をお伝えします。
客室
客室の広さは様々ですが10~25㎡程度、天井高さも2.4~3.5m程度の空間が多いのではないでしょうか。
天井形状も平天井が多く、デザインによっては折り上げ部が設けられる場合もあります。
課題
災害大国と言われる日本にあって、ホテル・旅館は避難先の対象となっているケースがあります。(詳しくはこちらのコラムをご確認ください)
なかでも客室は避難時に滞在時間が最も長くなる空間となるうえ、最近全国で地震が頻発していることで避難時に地震や余震が発生することも懸念されます。
過去の地震では、部屋の広さや天井高さがそれほど大きくない空間でも天井の落下被害が報告*1されています。
このため、人的・物的な被害リスクへの備え、そしてBCPとしても天井落下への対策が重要となります。
天井の地震対策(一例)
耐震天井
業界でもっともポピュラーな天井の地震対策です。
▼耐震Power天井の特徴やCADデータなど詳しい情報はこちら
【製品情報】耐震Power天井(桐井製作所 企業サイト)
<!>上記の天井工法は対策の一例です。詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。
廊下
廊下は天井高さがそれほど高くなく、天井形状も平天井の場合が多い空間です。室内からの見た目はシンプルですが、天井裏には各客室に設備機器(例えばエアコンなど)を設けるためのダクトや配線が張り巡らされることが多いのではないでしょうか。
なお災害時の避難経路に設定されていることが多く、避難する際の安全が確保できる空間であることが求められます。
課題
天井裏にダクトや配線が張り巡らされる場合、天井の地震対策をするためのブレース(斜め部材)を必要数設けるのが困難になるケースがあります。
天井の地震対策(一例)
廊下対応の耐震天井
吊り材、ブレースを使わないことで設備機器等の影響を受けづらい耐震天井です。
▼ボルトレス・ラインの特徴やCADデータなど詳しい情報はこちら
【製品情報】ボルトレス・ライン(桐井製作所 企業サイト)
<!>上記の天井工法は対策の一例です。詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。
フロント/ロビー/ホワイエ/レストラン/カフェ/バー/ホール/宴会場
天井高さが客室より高く、吹き抜けが設けられているケースもあります。
天井形状は折り上げや段差部、勾配など様々で、形状だけでなく内装仕上げ材も意匠性に富む空間が多く見られます。
課題
意匠性と安全性の両立が求められます。折り上げ部や段差部、勾配などへの対応とともに照明器具や設備機器、柱型と天井との取り合いに隙間(クリアランス)を設けるかどうかで天井の地震対策として検討する工法が変わります。
また近年は脱炭素・カーボンニュートラルへの取組みが建築物でも活発に進んでおり、ホテル・旅館でも木材が内装仕上げ材として使われることが多くなりました。
天井にも木材が使われる場合、その重さやデザインに対応する工法を選ぶ必要があります。
なお空間規模が大きく天井が特定天井になる場合は、天井脱落対策に係る技術基準に則った天井の計画・設計が必要になります。
天井の地震対策(一例)
耐震天井
照明器具や設備機器、柱型や段差部等に隙間(クリアランス)を設ける納まりが可能な場合はもっともポピュラーな天井の地震対策から検討していくことになります。
告示711号対応耐震天井
特定天井で各部に隙間(クリアランス)を設ける納まりが可能な場合、吊り天井で天井裏にブレース(斜め部材)を設ける工法を検討することになります。
新耐震Full Power天井の事例:羽島市 新庁舎 市民ロビー(桐井製作所)
▼特徴やCADデータなど詳しい情報はこちら
【製品紹介】新耐震Full Power天井(桐井製作所 企業サイト)
<!>上記の天井工法は対策の一例です。隙間(クリアランス)を設けない設計に対応する製品および試験データを提供している場合もありますので、詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。
準構造耐震天井
隙間(クリアランス)を設けない場合、吊り天井ではなく、支持構造部と天井下地材を専用の金具で直接固定する工法が考えられます。
KIRIIアングルクランプの事例:多摩信用金庫 本店 エントランスホール(桐井製作所)
▼特徴やCADデータなど詳しい情報はこちら
【製品紹介】KIRIIアングルクランプ(桐井製作所 企業サイト)
<!>上記の天井工法は対策の一例です。詳しくは各内装下地メーカーにお問い合わせください。
まとめ
ホテル・旅館はそれぞれのコンセプトを反映した意匠性に富む空間が多く見られます。
その一方で、災害時に避難先の対象になっているケースもあるため、施設における防災対策やBCPの1つとして、天井の地震対策を行い、意匠性と安全性の両立を図ることが大切ではないでしょうか。
建物構造と合わせて、天井をはじめとする建物内部の地震対策にも目を向けて施設計画または設計いただければ幸いです。
天井の地震対策をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
株式会社桐井製作所は耐震天井を業界で初めて研究開発・販売開始しました。
公共施設から民間施設まで全国1万件以上の施設の安心・安全を天井から支えています。
これまでの知見や蓄積した技術力で、建物の計画または設計、工事に携わる方など、皆様それぞれのご状況に応じてサポートさせていただきます。
参考文献
*1国立研究開発法人建築研究所「No.193号(2019(平成31年) 3月)「東日本大震災における地震被害を踏まえた吊り天井の基準の整備に資する検討」2.地震による天井の脱落被害」2019,3
2011年の東日本大震災で発生した天井の脱落被害を受け、国土交通省は建築基準法を改正し、2014年4 ...