天井の地震対策の必要性

公立学校施設の老朽化対策と耐震化に向けた、建物内部に関わる基礎知識

近年、公立学校施設の新改築・増築・改修が全国各地で行われています。

少子化とともに廃校も進む中、なぜ学校施設が生まれ変わろうとしているのでしょうか。

誰が利用するのか?どんな時にどのように活用されるのか?
このことが、近年の新改築・増築・改修に大きく関係しています。

このコラムでは、公立学校施設の役割と建物内部の地震対策に関わる課題、そして、なぜ課題への対策が必要なのかを、文部科学省が公表している情報や資料をもとにお伝えします。

 

公立学校施設とは?

公立学校施設は、児童生徒が学習や生活する場、教職員が勤務する場であるとともに、地震などの災害時には地域住民の避難場所等としての役割も担っています。

また近年では、公共施設等(社会教育施設、社会体育施設、児童福祉施設、老人福祉施設等)の他施設との複合化も地域と連携した施設整備の方法として示され、地域住民にとって災害時の利用だけでなく、日ごろ最も身近な公共施設としての活用も進められています。

公立学校施設について、文部科学省は次のように示しています。

公立学校の施設整備

公立学校施設は、児童生徒などが一日の大半を過ごす活動の場であり、児童生徒の生きる力を育むための教育環境として重要な意義を持っています。文部科学省では、耐震化をはじめ、地域材等の木材利用の推進、バリアフリー化、アスベスト対策、老朽化への対応、特別支援学校の教室不足の解消、学校統合への対応、廃校や余裕教室の有効活用などのための地方公共団体の取組を支援・推進しています。

(出典)文部科学省「公立学校の施設整備」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/main11_a2.htm*1

避難場所に関わる情報として、学校施設の耐震化に関しては次のように示されています。

公立学校施設の耐震化の推進

公立学校施設は、児童生徒の学習や生活の場であるとともに、地震などの災害時には地域住民の避難場所等ともなることから、耐震化によって安全性を確保することは極めて重要です。

(出典)文部科学省「公立学校施設の耐震化の推進」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/taishin/index.htm*2

 

公立学校施設が抱える課題

児童生徒と教職員だけでなく、地域住民にも活用が広がる公立学校施設について、施設の抱える課題のうち、建物内部の地震対策に関わる、老朽化対策と耐震化の2つをみていきます。

老朽化対策

公立小中学校の校舎は昭和40年台後半から50年代に建設されたものが多く、築25年以上経過しているものが8割を超えています。
また、合計面積が2016年度から2021年度までの5年間でほぼ倍になっていることから、校舎等の老朽化対策は先送りのできない重大な課題とされています。

公立小中学校の経年別保有面積
(出典)文部科学省「令和3年度 文部科学白書」

建物部材の経年劣化は、安全面での不具合や機能面での不具合を引き起こすとされ、学校に通う児童生徒の安全確保はもちろんのこと、公立小中学校の約9割が地域の避難所となっていることから、地域の防災機能強化の観点でも、早急に学校施設の老朽化対策に取り組む必要があると、文部科学省は伝えています。*3

なお、昨今の厳しい財政状況の下で効率的・効果的に老朽化対策を進めるために、従来のように建築後40年程度で建て替える計画ではなく、コストを押さえながら建て替えと同等の教育環境を確保できて、排出する廃棄物量も少ない新たな方法「長寿命化改修」への転換も求められています。*4

 

耐震化

公立学校施設の屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策が、平成27年度までの完了を目標に、文部科学省によって重点的に推進されてきました。

その結果、この対策はおおむね完了した状況となっています。

なお、一部の学校設置者においては、対策が完了していないことから、その後の取組み状況について、令和3年度にフォローアップ調査が実施されています。

屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策
(出典)文部科学省 報道発表「公立学校施設の老朽化状況調査及び耐震改修状況のフォローアップ結果について」,令和4年8月8日

屋内運動場等の大規模空間の天井耐震化がおおむね完了した一方で、屋内運動場等の吊り天井以外の非構造部材の耐震対策が未実施の施設が全体の約4割にも上ることから、現在、対策への取組みが進められている状況です。
※ 屋内運動場等以外の校舎などの天井、照明器具、窓・ガラス、外壁、内壁 など

屋内運動場等の吊り天井以外の非構造部材の耐震点検・耐震対策
(出典)文部科学省 報道発表「公立学校施設の老朽化状況調査及び耐震改修状況のフォローアップ結果について」,令和4年8月8日

特に、前述の老朽化対策が急務となっている施設では、地震による揺れで天井落下や間仕切り壁の倒壊など、被害が拡大する可能性が高いことから、安全確保の観点で、屋内運動場等の吊り天井以外の非構造部材の耐震対策への取組み支援方針が、文部科学省から示されています。*5

 

なぜ老朽化対策、耐震化が必要なのか?

老朽化対策、耐震化が喫緊の課題とされていますが、その背景には、地震の揺れや老朽化が主因とされる建物内部の被害がいくつも発生していることが挙げられます。

例えば、天井を含む非構造部材の耐震対策が急ピッチで進められるきっかけとなった東日本大震災での被害。
そして対策が進められる中での2016年の熊本地震。
さらにその後各地で発生している地震でも被害が報告されています。

【例1】2011年 東日本大震災*6
  • 非構造部材の被害

構造体の損傷が軽微な場合でも発生していて、文部科学省に報告された中で、公立学校施設における天井材の落下被害は1,636校、照明器具の被害は410校にも上りました。(2011年6月16日時点)

  • 天井材の落下によって生徒がけがをした被害事例

(出典)「東日本大震災の被害を踏まえた学校施設の整備について」

【例2】2016年 熊本地震*7
  • 非構造部材の被害

(出典)熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備に関する検討会「熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備について」緊急提言

【例3】2022年にも発生した 老朽化が主因とみられる建物内部の被害

施設の老朽化が主因とみられる安全面の不具合(ひび割れや破損、剥離、腐朽等による仕上げ材や部品が落下等)は2021年度には全国で2万2029件発生していて、日常的な点検や修繕を引き続き行うことで、致命的な損傷の発現を事前に防ぐ必要があると伝えられています。*5

 

まとめ

公立学校施設の役割と建物内部の地震対策に関わる課題、そして、なぜ課題への対策が必要なのかを、文部科学省が公表している情報や資料をもとにみてきました。

公立学校施設は、従来の通り、日ごろ児童生徒と教職員が使用するのとともに、災害時には地域住民の避難場所等としての役割を担っていることに加えて、近年では公共施設等との複合化によって地域住民にとって日ごろ最も身近な公共施設としての活用も進められていることが分かりました。

そういった中で、築25年以上経過している施設が約8割を超え、5年間でその面積がほぼ倍に増えていることから、老朽化対策が先送りのできない重大な課題になっています。

加えて、東日本大震災以降、急ピッチで進められてきた屋内運動場等の吊り天井等の落下防災対策がおおむね完了した一方で、現在は、屋内運動場等の吊り天井以外の非構造部材の耐震対策が求められています

建物内部の地震対策に関わる2つの課題

・老朽化対策
・屋内運動場等の吊り天井以外の非構造部材の耐震対策

 

なお、新改築・増築・改修する際には、施設整備の方針を踏まえることが重要になることから、学校施設を取り巻く状況も確認しておくことをおすすめします。

例えば、建物内部の地震対策に関わる情報としては「木材利用」と「長寿命化改修」が挙げられます。

これらについて、施設整備のガイドラインや林野庁、文部科学省の情報をもとに別コラムでお伝えしていますので、よろしければご一読ください。

▼計画および設計前に確認しておきたい「木材利用」と「長寿命化改修」を解説
【コラム】公立学校施設の新改築・増築・長寿命化改修に関わる、ガイドラインと施設計画に影響する取組み

 

参考文献
*1
文部科学省ホームページ「公立学校の施設整備」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/main11_a2.htm
*2文部科学省ホームページ「公立学校施設の耐震化の推進」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/taishin/index.htm*3文部科学省ホームページ「公立学校施設の老朽化対策の推進」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1334433.htm*4文部科学省ホームページ「学校施設の長寿命化改修の手引~学校のリニューアルで子供と地域を元気に!~」の公表について」,平成26年1月8日(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/027/toushin/1343009.htm*5文部科学省 報道発表「公立学校施設の老朽化状況調査及び耐震改修状況のフォローアップ結果について」,令和4年8月8日*6文部科学省「東日本大震災の被害を踏まえた学校施設の整備について」,平成23年7月7日*7熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備に関する検討会「熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備について」緊急提言,平成28年7月

2023.01.24